だりあは志ん朝の「大山詣」と「芝浜」がお気に入りのネタで、

「志ん朝の住吉踊りなんてカッコよくてさ」

 などと、まるで他の女の子がジャニーズや韓流を見て目を輝かせるように、だりあは語るのである。

 ダンスとカッポレはかなり違うが、

「バランスとかはダンスのほうが簡単だから楽」

 と言って美波の前で雷門助六よろしく、操り人形のカッポレを見せると、

「アンタそれだけ出来るなら、ダンス簡単だって言うわそりゃ」

 意外と実力は高い。

 だりあは落語をする関係上、着物の着付けが出来る。

 さすがに振袖は一人では着られないが、高座で着る着物ぐらいは一人で着付け出来る。

「着物ぐらいは着られたほうが何かの役に立つかなって」

 浴衣ぐらいなら誰の手も借りずに、身八つ口から手を入れて端折りもさばけるし、一人で半幅帯ぐらい軽々と結んでしまうのだが、この日の夜も、

「花火するのに浴衣も着ないんじゃ、風情も何もないし」

 といい、持ち込んだ浴衣を一人だけ着て出てきた。

 本寸法の伊勢型紙の藍染で、源氏車が染め抜かれた大人っぽい浴衣に、金茶の米沢織の半幅帯を花文庫に結んである。

「それなら男子イチコロだね」

 ひまりが言った。