奇妙な病が発生した。
病名を『天使病』という。

十二才以下の子供しか発症しない病で病名だけ聞くと幻想的な響きだが、症状を見るとそうとは言えない。

ベッドに身を起こしたその少女は右目からは、翼が生えていた。
白い純白の翼が瞳から突き出ているのだ。

痛みや熱などの症状はなく感染症でもない。
原因不明の細胞の突然変異だとされた。

そしてここは、とある病院の小児病棟である。
六人相部屋の病室には少女のような『天使病』を発病した子供たちが隔離されていた。

少女の他の患者には

耳から。
頭に幾つか。
体中に小さな。
手の爪から。
胸の中央から。

大きさと数は疎らであるが、全ての少年と少女に翼が生えていた。

皆、切除手術を控えている。
治療薬などはなく、それしか治癒方法が見つかっていない。

手術を終えひとり、またひとりと退院して行き最後に右目から翼の生えた少女が残された。

少女の手術日当日。

少女は病室の窓際に立ち空を見上げると、僅かに開いた窓の隙間から白い羽が舞い込み床に落ちた。

少女はそれを拾い掌に乗せる。

「……わたしも」

羽を握り締めたとき、看護士が病室を訪れ手術時間が来たことを告げた。
彼女は頷き看護士に手を引かれながら、もう一度、窓の方向を振り返る。

「……」

背中に翼のある子供たちの影が見える。

彼女と彼らは一度、天から落ちこぼれた。
もう一度、戻れるのだろうか。

少女の翼のない瞳には子供たちは見えない。





『天使病』 終わり
2020.5.12.(公開)
あとがき

お読み頂きありがとうございます。
この作品はLINEオープンチャットにて公開させて頂いたものです。

この場を借りてお礼を申し上げます。
ありがとうございました。


ひのみ りん拝

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