「仁科を、誰にも取られたくないんだよ。」
「でも私なんて女子力皆無だし。可憐ちゃんみたいに可愛くないし。上手く笑えないし。」

言い訳を並べながら、だんだん視線が下へと落ちてしまう。

「無理に笑わなくていいし。笑えないなら俺が笑わせてやるよ。」

言うや否や、脇腹をもにょもにょされて、「ひぇゃっ」と変な声が出た。

「ちょっと!笑えないし。」
「笑ってるじゃん。」

「飲み過ぎだし。」
「飲み過ぎじゃない。」

うだうだと言い合いをして、ハタと気づく。

ここ、電車の中だった。

バカップルがくだらないことしてるとしか思えないことをしてしまった。
まわりの視線が冷やかで痛いよ。
ほんとに、いい歳してなにやってるんだ。

「じゃあ、またね。」

タイミングよく私が降りる駅に着いて、逃げるようにして電車を降りる。

家に着いてからも、顔の火照りと胸のドキドキはしばらく治まらなかった。