大会が始まり、立順が近づいてきた。道場に入ることが許された僕達は、控室で着替えを済ませ、弓を持って外に出た。
 弓道場の外には、練習の為に使用する()(わら)がいくつか置いてある。的前以外で矢を放す練習ができるのは、巻き藁の前と決まっている。
 僕達三人は巻き藁で練習をするために、道場裏に足を運んだ。順番待ちの列が続く中、巻き藁矢を持った高瀬と古林が先に並ぶ。
 二人を横目に、僕はひたすら素引きをして自分の形を確かめる。
 凛と話してから今日まで、とにかく自らの形を信じて練習に励んだ。会はまだ取り戻せてはいない。だけどきっかけは掴めた気がした。
 二月の練習試合以降、多くの人と会話を交わした僕は本当に恵まれていると思った。弓道を続けられるのも、全ては周りの人のおかげ。今日の試合は、今まで支えてくれた人達に捧げる試合になる。頑張らないといけない。
「一」
 突然、名前を呼ばれた。聞いたことがある声に、僕は直ぐには振り向かなかった。一回深呼吸をしてから、声のする方に視線を移す。
 去年の新人戦と全く同じ素顔。変わらない顔が目の前にあった。
「久しぶり……だね」
 目の前に袴姿で現れた旧友は、以前のような輝いた目をしていなかった。弓道をはじめた時とは違う、勝利に飢えた目をしている。
「向こうで話そう。二人きりで話がしたい」
 言い終えた橘は、そのまま僕に背を向けると横道を歩いて行く。僕は橘の後ろを黙ってついていく。
 僕だって話したいことがあった。橘に対して謝りたいこと、伝えたいこと。今がそのタイミングなのかもしれない。
 僕達は道場の隣にある公園に足を運んだ。大会が開かれていることもあり、公園内には人がほとんどいなかった。
「そこ座れよ」
 橘が指さした先にはベンチがある。僕は頷くとそこに座った。僕が座るのを見計らって、橘も腰を下ろす。
「あのさ、たちば――」
「今日の大会出るんだな」
 僕の言葉を遮って話し出した橘は、正面を向いたまま言葉を紡いでいく。
「二月の練習試合。俺は一が選手として出てるってわかったとき、むしゃくしゃした。殴りたくなった。どうして今更弓道をやっているんだって。新人戦の時、さんざん言ってやったのにふざけるなよって」
「ごめん……」
 橘の言い分はもっともだ。決して否定などできない真実。僕だって同じことをやられていたら、橘を殴っていたと思う。