関東高等学校弓道大会予選会当日。僕はいつも通り目を覚まし、集合場所である大宮公園弓道場に向かった。
 今日の大会は特別な意味を持っている。男子弓道部にとって大きな一歩になる大会。決して試合に勝つことだけが目的ではない。今日は学校名を背負って試合に出場することが、最も意味を持つ。そこに結果が上乗せされるならなおさらだ。
 気楽に行こう。そう思って家を出たけど、会場に着く頃には気楽どころではなかった。周りの空気にあてられたのか、変な感覚に溺れそうになる。
 今までの大会では、緊張したことがなかった。それなのに今日は、心臓の高鳴りが止まらない。それは僕にとって、大切な試合だからかもしれない。
「真弓君! こっちこっち」
 声のする方へ視線を向けると、高瀬が笑顔で手を振っていた。
「いよいよだね」
「うん。あれ、古林君は?」
「的場先生と一緒に資料をもらいに行ったよ。そろそろ帰ってくるんじゃないかな」
 高瀬は道場内へと視線を向けている。どうやら古林は既に道場内にいるみたいだ。
「なら、僕達も行こうよ」
「ちょっと待った!」
 高瀬が僕の肩に手を置く。
「真弓君、予選に出るチーム数って知ってる?」
「いや、知らないけど」
 今日参加するチームなんて意識したことがなかった。僕が知っているのは、比較的強豪校が多いということぐらいだ。
「チーム数だけでも、百五十チームくらいにはなるんだよ。だから立順の早いチームが優先的に道場に入って準備するんだよ」
「そうなんだ。高瀬君、詳しいね」
「そりゃ弓道好きだからね。それに部長だから」
 胸を張る高瀬はどこか誇らしげだった。部長なら的場先生と資料を取りに行くべきじゃないかと思ったけど、心に留めておくことにする。
「来たな。真弓」
 古林が肩をポンッと叩いてきた。
「立順どうなった?」
 高瀬は古林の手から資料を奪い取り、草越の名前を探し始める。
 そんな高瀬を見ながら、古林は軽く笑った。
「ある意味、最高の結果と言っていいのかもしれないな」
「それってどういう意味?」
 古林の発言の真意が気になった。それに、さっきまで元気だった高瀬が資料を見てから急におとなしくなってしまった。良くないことでもあるのだろうか。
「もしかして、最初の立とか最後の立ってこと?」
 僕の問いに、古林は首を横に振る。高瀬は資料を見たまま硬直している。いったいどういうことだろうか。