「わがままなんだよね、私。一が弓道をしてるのは、当たり前のことだと思ってたから。その当たり前が変わっちゃうことが嫌だったの。だから私が弓道を始めれば、一もまた弓道を始めてくれるんじゃないかって、少し期待してた」
迷惑だったよねと、凛は頭を下げてくる。そんな凛に僕は今の気持ちを吐きだした。
「迷惑じゃないよ。凛がわがままだったから、自分勝手だったから僕は救われた。大好きな弓道を手放さずにすんだんだ。本当に感謝してる」
「へへっ。酷い言われようだね、私」
男勝りな凛だからこそ、今の僕がある。凛のわがままに導かれて弓道を続けてこれた。
「凛は今のままでいいんだよ。僕の前では、いつものわがままで自分勝手な凛でいてほしい」
凛は昔からずっと変わらなかった。目指すべき道を失い、路頭に迷っていた僕を正しい道に導いてくれる光。凛は今でも僕にとって替えの利かない存在だ。
「私のわがままだって、たまには役に立つんだね」
凛は目尻からこぼれそうになっていた涙を拭った。
先程まで穏やかだった風が突如に強まり、思わず僕と凛は手で風を遮った。しばらくして風がおさまる。凛は大きく両手を広げ、伸びた。
「あーあ。もう少しで大会が始まっちゃう」
凛はそのまま僕の隣に並ぶと、肘で脇をこつんとつついてきた。
「決めた。私は自分の力でインハイに行く。一はインハイに行けなかった時の保険ね」
「酷いな。僕は凛の保険なんだ」
「当然でしょ。私は自分の力でインハイに行きたい。今のチームなら、絶対にいけると思ってるから。そのためにも、まずは関東大会予選に勝って勢いをつけるんだ」
「でもその前に、Aチームに上がらないと」
凛はまだBチーム。実力がまだ追いついていない分、もう少し努力が必要だ。
「そ、そんなのわかってるから。私は大器晩成型なの。あと一年もすれば、Aチームのエースになってるんだから」
腕組みをして威張ろうとする凛を見てると、自然と笑いが込み上げてきた。
「そうだね。凛ならできるよ」
きっとできる。不思議と凛なら成し遂げると思ってしまう。
「一のくせに、生意気言うな」
握り拳を作った凛は、僕の胸を軽く叩いた。そして、そのまま僕の胸におでこを押し当ててきた。
「り、凛?」
「関東大会出場、絶対に決めてね。次の大会は、男子弓道部の復活の場になるんだから」
突然の凛の行動に、僕は動揺を隠せなかった。凛の熱が胸を伝って届く。少しずつ心臓の鼓動が早くなっているのが自分でもわかる。
凛は昔の約束を覚えていた。それを踏まえて新たな道を進もうとしている。自分で未来を切り開こうとしている。そんな凛に、僕は応えなきゃいけないと思う。
今日まで僕は、多くの人に支えられて弓道を続けてきた。途中で道を踏み外しそうになったけど、こうして戻ってくることができた。一人では、弓道を続けることができなかった。
だからこそ、支えてくれた皆に返さなきゃいけないと思う。伝えなきゃいけないと思う。
「……うん」
僕はゆっくりと頷いた。そして、そっと凛の頭に手を置く。
もう大丈夫。大切なことを思い出せたのだから。
迷惑だったよねと、凛は頭を下げてくる。そんな凛に僕は今の気持ちを吐きだした。
「迷惑じゃないよ。凛がわがままだったから、自分勝手だったから僕は救われた。大好きな弓道を手放さずにすんだんだ。本当に感謝してる」
「へへっ。酷い言われようだね、私」
男勝りな凛だからこそ、今の僕がある。凛のわがままに導かれて弓道を続けてこれた。
「凛は今のままでいいんだよ。僕の前では、いつものわがままで自分勝手な凛でいてほしい」
凛は昔からずっと変わらなかった。目指すべき道を失い、路頭に迷っていた僕を正しい道に導いてくれる光。凛は今でも僕にとって替えの利かない存在だ。
「私のわがままだって、たまには役に立つんだね」
凛は目尻からこぼれそうになっていた涙を拭った。
先程まで穏やかだった風が突如に強まり、思わず僕と凛は手で風を遮った。しばらくして風がおさまる。凛は大きく両手を広げ、伸びた。
「あーあ。もう少しで大会が始まっちゃう」
凛はそのまま僕の隣に並ぶと、肘で脇をこつんとつついてきた。
「決めた。私は自分の力でインハイに行く。一はインハイに行けなかった時の保険ね」
「酷いな。僕は凛の保険なんだ」
「当然でしょ。私は自分の力でインハイに行きたい。今のチームなら、絶対にいけると思ってるから。そのためにも、まずは関東大会予選に勝って勢いをつけるんだ」
「でもその前に、Aチームに上がらないと」
凛はまだBチーム。実力がまだ追いついていない分、もう少し努力が必要だ。
「そ、そんなのわかってるから。私は大器晩成型なの。あと一年もすれば、Aチームのエースになってるんだから」
腕組みをして威張ろうとする凛を見てると、自然と笑いが込み上げてきた。
「そうだね。凛ならできるよ」
きっとできる。不思議と凛なら成し遂げると思ってしまう。
「一のくせに、生意気言うな」
握り拳を作った凛は、僕の胸を軽く叩いた。そして、そのまま僕の胸におでこを押し当ててきた。
「り、凛?」
「関東大会出場、絶対に決めてね。次の大会は、男子弓道部の復活の場になるんだから」
突然の凛の行動に、僕は動揺を隠せなかった。凛の熱が胸を伝って届く。少しずつ心臓の鼓動が早くなっているのが自分でもわかる。
凛は昔の約束を覚えていた。それを踏まえて新たな道を進もうとしている。自分で未来を切り開こうとしている。そんな凛に、僕は応えなきゃいけないと思う。
今日まで僕は、多くの人に支えられて弓道を続けてきた。途中で道を踏み外しそうになったけど、こうして戻ってくることができた。一人では、弓道を続けることができなかった。
だからこそ、支えてくれた皆に返さなきゃいけないと思う。伝えなきゃいけないと思う。
「……うん」
僕はゆっくりと頷いた。そして、そっと凛の頭に手を置く。
もう大丈夫。大切なことを思い出せたのだから。