僕がわからなかった、もやもやしたもの。忘れかけていたことが蘇ってくる。
 僕が弓道を続ける理由。
「大切な人の笑顔を守る為に弓道を続けています。決して一人でやっているとは思っていません。周りの友達や教えてくれる人達がいてこそ、弓道をやっていけると思っているので」
 自分の信念を述べ、先輩に視線を向ける。
「先輩は一人じゃありません。正直な気持ちを打ち明ければ、必ず周りの先輩達も心を開いてくれるはずです。たとえ引き付ける射ができなくても」
「無理よ。私のことなんて、受け入れてくれる人がいるわけない」
「それでも、まだ僕がいます」
「えっ」
 虚を付かれた表情を先輩は晒す。その綺麗な瞳から一粒の涙が頬を伝った。
「もし、それでも先輩のことを悪く言う人がいたら、僕に言ってください。先輩のいいところ、たくさん話しますから」
 言わなきゃ伝わらないことがある。
 過去に僕が言われたことは、先輩にも当てはまるのかもしれない。
 先輩と僕はどこか似ている。それは何かしら一人で抱えている問題があったからなのかもしれない。
「あ、ありがとう……真弓君に言われると、頑張れる気がしてきた」
 涙を拭った先輩は、そっと呟いた。
「先輩の射だって、きっと憧れている人がいるはずです。僕は先輩の射形、好きです」
 先輩の家で一緒に練習した時に見た射形は、本当に綺麗だった。ずっと弓道と真摯に向き合って、射形を大切にしてきた先輩だからこそ、見せれた射形だと思う。
「私は関東大会とインハイで自分にないものを見つけたい。私が求める本物を手に入れたい。だからこそ、真弓君にはずっと私の理想の人であってほしい」
 先輩はそう告げると立ち上がり、帰り支度を始める。
「今日はありがとう。とてもスッキリした」
 先輩は決意に満ちた表情で、僕の方に振り向いて言った。
「僕の方こそ、ありがとうございます。大切なことを思い出せました」
「大切なこと?」
「はい」
 先輩のおかげで一歩進むことができた。本当に感謝してもしきれない。大切なことを思い出せた僕は、先輩の背中を追うようにして道場を後にした。