「高校に入ってから、私は変わろうと思った。一人じゃなくて、仲間と力を合わせて弓道をしようって。でも、ずっと一人で弓道をしてきた私は、人と話すことすら難しかった。話そうと思っても言葉が出てこない。コミュニケーション能力がなかったの。そしてその時に思いついたのが、部長になることだった。部長になれば、必然的に人と話すことが増えると思ったから。そこに人を引き付ける射が加われば、あの時の真弓君みたいに祝福してくれる人が、私の周りにもできると思ったの。私にないものを真弓君は持っている。だから私は真弓君みたいになりたいの。私、間違っているかしら?」
 先輩になくて、僕にあるもの。ここまで言われると、僕にも十分理解できた。
 先輩が言いたいこと。望んでいること。そして、今の僕ができること。
「先輩はすごいです。一人でも、ずっと頑張ることができたのだから。僕にはできなかったことです」
 早気になってからずっと一人で努力し続けた。でも、結局は放り出してしまった。先輩は弓道を始めた時から、今日までずっと一人きりだった。
「でも、先輩の考えは間違っています」
 僕は言い切った。先輩は俯いたまま微動だにしない。
「弓道は人を引き付ける為にするわけじゃない。弓を引くのが好きだったり、活躍したいと思ったことがあるからこそ、弓道をしてるんじゃないですか?」
 先輩にだって弓道を始めたきっかけがあるはず。先輩は見せつける為に弓道をしているとは、僕には思えなかった。
「私は……一人になるのが怖いの。でも今のままじゃ、私はまた一人になっちゃう」
 先輩の口から放たれた言葉に、僕は返す言葉が見つからない。
 ずっと一人で取り組んできた先輩は、とてつもなく固い信念という名の殻に包まれているみたいだ。その殻は、先輩の家柄が関係しているのかもしれない。
 周りの人とは待遇が違う空間で育ってきた先輩は、誰かしら守ってくれる人がいた。周りの関係を断ち切ってもどうにかなっていた。でも、弓道を知って友達の意味を知った。そして先輩は気づいてしまった。自分の周りには友達がいないことに。
「僕は弓道が大好きです。もっと射形がきれいになりたいし、もっと中りが欲しいと思っています。でも、それは弓道をやっていく上での目標みたいなもので。僕は……」
 凛の顔がふと浮かび上がってきた。