退場口の方から古林が叫ぶ。いつもは冷静な古林も、この一射には興奮を隠しきれなかったみたいだ。
 少し遅れて、拍手の音が道場内に響き渡る。その音を聞いて、ようやく僕は皆中を出していたことに気づいた。当然、岩月の時と同様の拍手とはいかなかった。だけど久しぶりの皆中は、とても気持ちよかった。
 弓倒しを終え、退場する為に足踏みを戻し直立する。そして右足を踏み出そうとしたとき、先程聞こえた声が脳裏で再生される。
 ――一!
 僕のことを一と呼ぶ人は、父さんを覗いて二人しかいない。
 直立したまま顔だけを観客に向ける。視線の先には、満面の笑みを浮かべた幼馴染がいた。
「凛……」
 あの時もそうだった。
 新人戦の一射目。凛の初めての試合。そこで見せた満面の笑みを今、同じ道場で晒している。凛は本当に変わらない。試合をしている時でも、応援をしている時でも。
 退場口に向かうと、高瀬が笑みを浮かべて僕を迎えてくれた。
「真弓君。本当にありがとう」
「いや、僕は当然のことをしたまでだよ」
 当然のこと。昔は当たり前だった。でも、今と昔ではその重みが全く違う。
「これで男子弓道部はなくならないよね」
「うん。そのはずだけど」
「お前ら。よくやったな」
 ずかずかと歩いてきた的場先生は、僕の肩をポンッと軽く叩く。
「高瀬が一射目を外したときはどうなることかと思ったけど、無駄な心配だったようだな」
「俺は一射目をはずしました。だけど古林君、真弓君と繋いでくれたので。二射目は気持ちが楽になりました」
 高瀬の結果は羽分けだった。弓を握ってまだ三ヶ月。正直、高瀬も弓道の才能があるのではないかと僕は思う。
「それに古林。お前はすごいな。完璧だ」
「たまたまです。中だったし、気軽に引くことができました」
 ぶれることのない古林がいたからこそ、今回の立はまわったと言っても過言ではない。実際にチームが崩れないように、真ん中から僕達を支えてくれていたのだから。
「そして、真弓。最後は見事だった。俺の高校時代を思い出す射だった」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
「それに、ほれ。最後の立の会。計ってやったぞ」
 差し出されたノートには予選と同様、数字が記されている。
「これは……」
 僕は自分の目を疑いたくなった。