心当たりがあるのか、古林は訝しんでいる。
 二人には話しておくべきかもしれない。橘と僕の関係を。信頼できるチームメイトに打ち明けるべきことかもしれない。
「岩月の橘と僕は同じ中学だったんだ」
「思い出した。真弓といつも一緒にいたアイツか」
「橘君のこと知ってるの?」
「おう。中学の頃、金魚の糞みたいに真弓にくっついていた橘を見たことがあるから」
「へー。でも、さっきは真弓君に目もくれなかったのにね」
「真弓。橘と何かあったんじゃないか?」
 鋭い質問を突き付けてきた。古林は本当に察しがいい。僕の考えの全てを見通しているのではないかと思ってしまう。古林を一瞥した僕はゆっくりと口を開いた。
「橘と僕は、お互いが認めていたライバルだったと思う。中学の頃、一番身近で競い合っていた仲だったから。去年の新人戦、凛の観戦でここに来た時に橘と会ったんだ。その時に色々とあって……」
「それで、ぎくしゃくしてるってわけだね」
「うん……」
 この件は僕が悪い。橘の厚意を踏みにじるように断った。今まで一緒にやってきた時間すら、全てなくそうとしていた。だから僕は、橘に何も言えない。
「それで、真弓はどうしたいんだ?」
「えっ?」
「えっ、じゃねーだろ。お前が決断することだろ」
 弓を握っていた左手に思わず力が入る。優柔不断な自分が情けないと思った。そんな僕に比べて、目の前の古林はいつも僕に問いかけてくれる。自分で決断すべき所を的確に指し示してくれる。僕はどうしたいのか。
「今はまだ、橘と話せない。でも、話しかけなくても伝える手段が今の僕にはある」
 握っていた弓をそっと抱き寄せた。僕の射形を好きになってくれた橘に伝えるにはこれしかない。言葉ではなく、まずは姿勢で伝えたい。あの時の僕と今の僕は別人なのだと。
「決勝、絶対に勝とう。僕達の弓道を見せよう」
 迷いはなかった。僕達は弓道をするためにここにいるのだから。
「それが真弓の答えか」
 ほっと一息吐いた古林は、僕に向けて左拳を突き出してくる。それを見た高瀬も、笑顔で拳を突き出した。
 僕達の見ている方向は一つしかない。言葉にしなくても伝わることってあるんだと思った。
 次にどうすべきか、今の僕には明確に見えている。二人の差し出す拳に、迷わず自分の拳をぶつけた。