二人に向かって頭を下げる。チームの一人として、僕は弓を引いていると実感することができた。弓道を続けられたのは、間違いなく目の前の二人がいたから。使い物にならない僕を信じてくれたから。
「大丈夫そうだな」
「うん。真弓君はリーダーだよ」
「部長は高瀬だけどな」
「俺は、大前としてチームを元気づければいいんだよ。人には役割があるんだから」
「そうだな。高瀬は大前がお似合いだ」
 目の前で笑いながら会話する二人を見ていると、色々と悩んでいたことがどうでもよくなってきた。
 この二人とこれからも弓道を続けていきたい。こんな所で立ち止まるわけにはいかない。今はそんな気持ちで満たされている。
「さて、そろそろ決勝だ。今の立と同じ感覚で臨めば問題ないからな。俺は女子の立を見学してくるから、お前らは控室で準備しとけよ」
 的場先生は足早に道場の方に戻ってしまった。下心丸出しの先生の行動に、僕は不思議と安心感を抱いていた。
「あっ、岩月だ」
 高瀬の声に僕は思わず振り返った。
 予選を十二射十一中。文句なしのトップ通過をした、埼玉県で全国に一番近い高校。その姿は僕達よりもたくましく、歩いているだけでも相手を威圧する空気を醸し出していた。
「今年の岩月Aは変則チームだね。二年生二人に一年生一人。二年生のうち、一人は昨年のインハイ個人の部で優勝した神津俊介(こうづしゅんすけ)が落に。大前に一年生の橘琢磨が入ってるね。神津さんはわかるけど、一年生の橘君が皆中出したってことは、相当強いんじゃないかな?」
「橘……」
 橘のことを聞くと、どうしても新人戦の時のことを思い出してしまう。
 あの時、僕は橘と決別した。お互い競い合っていた中学時代のことは忘れて、それぞれの道を歩むはずだった。弓道を辞める道と続ける道。対角線にいる僕と橘は絶対に交わらないと思っていた。それでも僕達は、同じ場所で弓を引く結果になっている。
 あの時僕に声をかけてくれた橘は、最後まで間違った道を選んではいなかった。僕の間違いを否定して、正しい道に導こうとしてくれた。それなのに、僕は橘を切り捨てた。行為を踏みにじってしまった。
 目の前に近づく橘から視線を逸らす。何となく向こうから話しかけてくれると思った。橘はいつも僕を見かけると、話しかけてくれたから。しかし橘は話しかける素振りも見せずに、僕達の真横を素通りしていった。
「橘って聞いたことがあるような……」