決勝戦が始まる前、僕達は先程の試合を振り返っていた。
「お前ら、やるじゃないか。このままいけば、問題ないんじゃないか」
 的場先生がけらけらと笑いながら話す。緊張感の欠片も感じさせない雰囲気に、張り詰めていたものが一気に解けた。
「高瀬。一射目と二射目、よく中てたな」
「一射目を中てるのが、大前の仕事ですからね」
 高瀬は胸を張っている。大前はそれでいい。強気な性格は、チームを引っ張るためには必要不可欠だ。高瀬はそれをわかっている。
「それと、古林。お前は中の人間じゃないな。どこでもやれるだろ」
「まあ、一通り経験はしてるから」
 無理じゃないと、古林は小さな声で呟いた。
 的場先生の言う通り、古林は文句の言いようがなかった。隙を見つけるのが難しいくらい完璧な射をしていたと思う。
「真弓は……ほれ」
 的場先生はノートの切れ端を差し出す。僕はそれを受け取り、書かれている文面を見た。
「二射目以降は、二秒後半から三秒前半の数字が出ているな。でも、一射目は二秒も経ってなかったぞ」
「そう……ですね」
「何が書いてあるの?」
「会の長さを計ってもらってたんだ。少しでも意識できるようにと思ってさ」
 試合前。僕は的場先生に頼みごとをしていた。現段階での会の長さを自覚するために。それと大会という大舞台で、会を保つことができているのかを認識するために。はっきりとした数値で知りたいと思った。
「でも、これではっきりした。僕はまだ会を保つことができない……早気なんだって」
「真弓。お前、俺らのことを信頼してたよな?」
 珍しく古林が僕に突っかかってくる。それでも、決して怒っているわけではないことが表情からわかった。
「信頼してたよ。でも、最初の一射目は自分のことしか考えていなかった。試合で負けたらどうしようとか、僕が外したらどうしようとか。正直、最初は周りが見えてなかった」
 久しぶりの試合だったからという言い訳はしたくなかった。実際に試合から離れていたのは、自分の心の弱さが原因なのだから。
「でも、僕が一射目を外した後に高瀬君が中ててくれて、古林君が続いてくれた。一射目の時と同じ状況で、僕に回してくれた。あの時、的に矢が中った音を聞いた瞬間、僕は周りを見ることができるようになった。本当に二人に助けられた立だった。ありがとう」