このままじゃ、駄目かもしれない。僕のせいで、チームが負ける……。
 パンッ。
 弱気になっていた僕の耳元に、爽快な音が響いた。くじけそうになっていた心に、深く響く音。僕は顔を上げて前を見た。
 高瀬が二射目を中てた。
 ――俺達を信じてよ。
 高瀬の言葉が脳内で蘇る。
 ――真弓君は一人で弓道やっているの?
 違う。一人じゃない。僕達はチームで弓道をしている。決して一人で弓道をしているわけではない。
 一人でやっているわけではないのに、知らないうちに独りよがりになっている。高瀬や古林のことを考えることができない。それが今までの僕だった。
 でも今は違う。あの日、話し合ったからこそ、こうして思い出すことができている。僕達はこれからもチーム一丸となって、危機を乗り越えていくんだと。そして、弓道部を少しでも長く続けるんだと。
 パンッ。
 古林も高瀬に続き二射目を中てた。
 ――だから、俺らはお前と心中するって決めたんだ。
 古林が自らのプライドを捨ててまでも、僕に託してくれた落のポジション。本当は古林だって落で出場したかったに違いない。それでも僕にその役目を託して、中の役割を果たしてくれている。僕はそんな古林の男気に応える必要がある。
 打起しをして、大三からの引分け。弓手に意識を集中させつつも、馬手は上腕三頭筋で引く意識を高く持つ。決して手で手繰るように引くことがないように。均等に、均等に。そして精一杯押し切り、とにかく伸びること意識する。それだけを考える。会はとにかく無心だった。一射目とは全く違う気持ちで臨めていた。
 僕には大切なチームメイトがいる。助け合える仲間がいる。そう考えるだけで、失敗の不安や早気の不安がなくなっている気がした。
 もう、僕は一人じゃない。
 パンッ。
 二射目は見事に的を貫いた。
 中ったことに驚きはなかった。むしろ僕は、会の長さに驚かずにはいられなかった。練習では長くても二秒前半しか保てていなかったのが、三秒くらい保つことができた気がする。
 会としてはまだ不十分な長さだと思う。三秒後半は保てないと最低限の詰合いと伸合いができないと言われているから。それでも手の内が崩れないまま、弓手でしっかりと押せていれば、中ることはよくある。中るってことは、一つでもいいところがあった証拠だ。
 残心のまま、僕はしばらく余韻に浸っていた。
 一瞬だったけど、この感覚を忘れないようにしたい。その意識が僕の中で強く芽生えた。
 その後は二射目の感覚を意識できたこともあって、僕は全て的中をものにすることができた。僕が四射目を射る頃には的中数は八中となっていたため、僕達は最低限のノルマを達成した。
 結果。高瀬、四射羽分け。古林、四射皆中。そして僕は四射三中。計九中で全体の三位として決勝戦に進むことができた。