あからさまな態度に僕は憤りを覚えるも、何も言い返すことができなかった。今日、この道場で試合のチャンスをもらっているのは僕達の方。ここで突っかかっても何もいいことは起きない。それをわかっている高瀬も古林も口を出すことはなかった。それでも二人とも握り拳を作っている。ここまで言われて悔しくないわけがない。
「今のお前らの評価はこんなもんだ」
 下を向いていた僕達に向け、声をかけてくる人がいた。
「的場先生……」
 よっ、と片手を挙げて的場先生は僕の声に応じる。
「まあ当然だな。不祥事を起こした高校。部員が少なくて活動の危機に陥っているという噂は、もはや全国に広がっていることだしな。大口を叩ける実績はお前らにはもうないんだよ」
 わかっていたことではあったけど、言葉にして言われると少し堪える。翔兄ちゃんが築き上げた草越高校男子弓道部の栄光は、もはや存在しない。取るに足らないこととして扱われている。
「それに、お前らは身内の女子弓道部からもひどい仕打ちを受けている。この事実を素直に受け止めないといけないな」
 今日の的場先生は、いつもと違った雰囲気を感じた。真面目というか、普段言わないような言葉で僕達の傷をえぐるようにして言葉を放つ。
「で、でも、私は男子弓道部ならやってくれるって思ってます。だって休まず練習してたでしょ」
 凛の声が胸に刺さる。明るく快活な声は、僕達に一筋の光を差し込んでくれるようだ。
「私は男子弓道部を信じてる」
 凛のまっすぐな視線に僕は少しだけ違和感を覚えた。以前に見たことがある様な、懐かしい感覚に襲われる。何か大切なことがある様な気がしてならない。でも、その正体はわからなかった。
「試合で見返そう」
 気づいたら言葉を発していた。それにつられて高瀬と古林は顔を上げた。
「僕達の練習は、決して無駄ではなかったことを藤宮先生に見せよう。それと他校に今の草越高校男子弓道部を見てもらおう。これが今の僕達だってことを」
 絶対に負けない。凛の一言を口火に、僕の中で何か弾けた。絶対に勝てると思えた。
「おう」
「当然だな」
 高瀬も古林も僕と同様の気持ちを抱いてくれている。このチームなら負けることはない。そう心から思えた。
 そして、練習試合が始まる。