男子弓道部の運命が決まる日。僕達は会場である大宮公園弓道場を訪れていた。僕にとっては秋の新人戦以来の大宮公園。凛の応援をするために訪れた当時とは、気持ちの持ちようが違った。
 今日だけは絶対に負けられない。その気持ちは、周囲にいる他校の人達よりも強いはず。それでも今日集まっているチームは、埼玉県内で弓道の強豪校と言われている学校だった。
 埼玉県内で男女ともに一番の強さを誇る岩月(いわつき)高校。緑の鉢巻が特徴的な東武農業第三(とうぶのうぎょうだいさん)高校など強豪チームが勢ぞろいしていた。
「すげー。埼玉のてっぺんを争っているチームが一堂に集まってるよ」
 高瀬は目をキラキラ輝かせている。弓道が大好きな高瀬にとって試合前の空気は、緊張感よりも高揚感の方が勝っているのかもしれない。高瀬の嬉しそうな表情が、僕にはとても頼もしく見えた。
「今日が勝負だからな」
「うん」
 古林の落ち着いた声音に僕は応える。試合慣れしている古林は、いつも通り落ち着いた様子を見せている。そんな対照的な二人に比べ、僕は少しだけ緊張と不安を抱えていた。
 中学二年生以来の試合。以前は自分の信じた弓道をすれば必ず結果がついてきた。だからこそ、緊張なんて感じたことがなかった。でも、今はそうじゃない。早気になってから緊張と不安を感じるようになった。むしろ今まで感じなかったのが異常だったのかもしれない。
 弓道場の入口周辺に集まる学生を眺めていると、道場前に見慣れた人達がいた。
「あっ、一じゃん」
 僕の姿に気づいた凛が手を振ってくる。僕達は凛の元へと向かう。
「調子どう?」
「まあまあかな」
「そう」
 凛はほっと息を吐いた。
「俺達、絶対に勝ってくるからね。楠見さん」
「う、うん。頑張ってね」
 高瀬が僕を押しのけ、爽やかな笑顔を見せながら凛に話しかける。凛は苦笑を浮かべながらも、高瀬に応えていた。
「あら、来ちゃったのね」
 和やかな雰囲気に水を差す冷酷な声が後方から聞こえる。振り返ると藤宮先生が立っていた。
「今日はどんな試合を見せてくれるのかしら」
「俺達は負けるつもりはないです」
 高瀬は負けない意志を前面に出している。
「まあ、せいぜい女子の名誉に泥を塗らない程度に頑張ってちょうだい。今日は強豪校である女子弓道部のおまけで出場できるのだから」
 嘲笑を浮かべた藤宮先生は、他校の先生の元へ直ぐに行ってしまった。