凛はゴム弓を引き始める。打起しの段階で僕は直ぐに変化に気づいた。以前は肩に力が入っているのが見ているだけでもわかったのに、今はリラックスできている。全く力が入っていない感じがした。さらに、凛は打起し後に馬手が弓手よりも下がる癖があったのに、それも解消されている。引分けも打起しで土台が出来ていたので、左右均等に引くことができていた。
「どうだった?」
 離れを終えた凛が僕に聞いてくる。
「すごく良くなってる。以前指摘した箇所が全て解消されていたし」
「やった。鏡の前でたくさん練習したんだ」
 笑顔を晒す凛は、自らの成長を素直に喜んでいる。凛は自らの課題を着実に克服している。凛だけじゃない。一緒に練習している高瀬も古林も、日々成長を続けている。でも、僕は成長できているのだろうか。
「そろそろ練習試合だね」
「うん」
「一は弓道楽しい?」
 凛の質問は、どこか僕の心を見据えているような気がした。
「もちろん楽しいよ。だって弓道好きだし」
「そうだよね。うん……本当に良かった」
 そう言うと凛は笑顔を見せた。純粋で屈託のない笑顔が、僕の胸に刺さる。
「実は、女子も一達のことを見直しているんだよね」
「そうなんだ」
「学校では空き教室でゴム弓引いたり、ビデオカメラで撮影した射形を見て研究したり。休日は電車に乗って、使える道場に通ってるでしょ」
「やけに詳しいね」
「だって、楓先輩が言ってたから」
 楓先輩と言われ、誰のことを言っているのかわからなかった。だけど直ぐに雨宮先輩だと思い出す。
「先輩、男子弓道部について詳しく知っているみたいで。よく道場で話してくれるんだ」
 凛の言葉に僕は意外だなと思った。たしかに先輩は男子弓道部について悪く思っていない。だけど、他の弓道部員にまで話しているとは僕は思ってもいなかった。
 僕の反応を窺うように視線を向けた凛は、そのまま続けた。
「楓先輩に何か話したの?」
 冷めた声が耳に響き渡る。凛の顔を見ると、訝しむような表情で僕を眺めていた。そういえば、凛には言っていなかったことがあった。
「実はふささら祭りの日に先輩に会って。そこで男子弓道部について話したんだ」
「そうだったんだ」
「道場の相談をしたり、弓道部について色々と話したり。相談に乗ってもらった」
 僕が思っている以上に、先輩は僕達の為に働きかけてくれている。
「先輩に相談して、答えは出たの?」