「それに、これ以上弓道を嫌いになりたくないんだ」
 偽りの笑顔を橘に向けた。こうして無理にでも笑ってないと、心が潰されそうな気がしてならなかった。
「俺は……確かに買いかぶっていたみたいだな」
「……そうだよ」
「一は、俺の憧れでライバルだった。だけど、今日でそんな気持ち何処かに飛んでいった。俺はお前を超える。俺の中から、お前の存在を消してやる。二度と思い出さないくらいに強くなってやる」
「……ああ」
 橘の叫びに頷くことしかできなかった。今の僕には橘と対等の立場にいる資格がない。
「それじゃ、今度こそ帰るよ」
 さよならのあいさつ代わりに橘の肩をポンッと叩いた僕は、駅に向かって歩き出す。
 もうこの場所に来ることは二度とない。来る権利すら僕にはない。僕は大好きな弓道を捨てた。そしてたった今、大切なライバルすら失ったのだから。