年が明け、練習試合まで一ヶ月を切った。
 正月休みなど考えもせずに、ひたすら練習をし続けていた僕達の努力が、少しずつ見え始めていた。三人立で入った実践形式の練習では、三人の的中数を総計九中まで伸ばすことができた。お互いが外した後は、絶対に中てようという意識が芽生え始めていることが大きい。それと、個々のレベルアップが確実に結果として出始めていた。特に顕著だったのが初心者の高瀬だった。弓に触ってからおよそ二ヶ月しか経っていないのに、常に羽分け以上の成績を出すことができている。経験者の古林は、皆中を四回に一回出せるまで射が安定してきた。そして僕は、早気は治っていないけど、高瀬と同等の的中を維持することができていた。
 個々のレベルが上がった今、次はチームとしてのレベルを上げていかないといけない。弓道はチームで試合に臨む。チームとして強くなるためには決めないといけないことがある。
「そろそろ立ち位置を決めて、本格的に練習していきたいと思ってるんだけど」
 自主練習が終わった後、僕は高瀬と古林を喫茶店に誘った。
「おっ、俺も思っていたところだよ」
「そうだな」
 二人が首を縦に振って、決めるのに同意してくれた。僕は以前からずっと考えていた案を二人に話すことにした。
「高瀬君は中で、古林君は落でどうかなって思ってる」
「うん。いいと思う」
 高瀬は二つ返事で僕の提案を受け入れてくれる。一方の古林は渋面をつくっていた。
「俺は真弓の提案、受け入れることはできない」
「えっ……」
 古林の言葉を僕は受け入れることができなかった。現在の技量を考えても、この順番で射るのがベストだと思っていたから。
「もしかして、僕が大前だから?」
「そうじゃない。俺が言いたいのは」
 古林は声を荒げた。喫茶店内にいた一部の人達が、僕達のテーブルに視線を向けてくる。
 僕には古林が否定する理由がわからなかった。確かに高瀬は大前に向いている。その明るい性格で確実に一射目を仕留め、チームに勢いを与えることができれば、どれだけ楽になることだろう。でも、高瀬は決定的に足りていないところがある。
 圧倒的に試合慣れをしていない。
 僕や古林は中学生の頃から多くの場数を踏んできた。試合勘はどうしても経験の多さでしか養うことができない。それに、今回の練習試合は男子弓道部の未来がかかっている。危ない橋を渡るべきではないはずだ。