僕は勘違いしていたのかもしれない。今までは早気になった自分自身に腹が立っていたはずだ。それなのに、その感情をいつの間にか真矢先生にもあてはめていた。最後の大会で試合に出れなかったのは、自分の的中率が下がっていたから。真矢先生は顧問として勝てる布陣で臨んだはずだ。いくら僕が個人で二連覇していたからと言って、チームとして大会に出ているのだから。
「おっ、いたいた。真矢に真弓」
 道場内から声をかけてきた的場先生はゆっくりと近づくと、僕と真矢先生を一瞥する。
「あれ。なんか俺、ここに来ないほうが良かったか?」
「いえ、そんなことは」
 僕は言葉に詰まりながらも、的場先生の問いに答える。その様子を見て、的場先生は真矢先生に視線を向けた。
「そういえば、真矢。例の件、真弓に任せていいから」
「でも、やっぱりこの件は荷が重いだろ。第一、俺だってまともに答えが見えていないことだぞ」
「だからだ。当の本人が克服するには、これしかないんだって。嫌なことを克服するには向き合うことが必要だろ?」
「で、でも……」
 二人の会話に僕はついていけなかった。何かを任せるらしいけど、的場先生の言っている例の件について僕は一言も聞いていない。
「的場先生。例の件って何ですか?」
 待ってましたといわんばかりに、的場先生はしたり顔を見せてくる。
「実は、お前にとある生徒の指導をしてほしいんだ。しかも密着でな」
にやりと笑みを浮かべる的場先生に対して、真矢先生は未だ迷っている顔を晒している。
「密着っていったい……」
「すみません、私に何か用ですか?」
 的場先生の背後から顔を覗かせたのは、先程僕が気になっていた女の子だった。
「あっ、ごめんね。えっと、確か君は……」
 名前を忘れてしまったのか、懊悩する的場先生に女の子は名前を告げた。
「大前です。大前早希(おおまえさき)です」
「そうだった。大前さんの形の指導だけど、これからそこの人が見てくれるから。まあ、仲良くしてやってくれよ」
 的場先生の勢いに、大前は一歩後ずさっていた。見知らぬ相手に話しかけられたのだから、当然の反応だ。的場先生は誰に対してもフレンドリーに接するから、少しやりにくいところがある。
「真弓もなんか言えよ」
 的場先生にせかされ、大前の前へと押し出される。
「えっと、その、とりあえずよろしく」