一方、経験者である古林は気になった生徒に向け、身振り手振りでアドバイスをしていた。いつも無言を貫き、教室では話すことがなかった古林が活き活きしている。弓道が好きなんだと実感させられる光景だった。
 僕もアドバイスをしようと思い、生徒の元に足を向ける。視線の先には、僕が一番気になっていた女の子がいた。先程の立では、僕と同じ早気を思わせる射をしていた。それでも、荒さはあるけど射形は綺麗なほうだ。しかし、早気のせいでその射形が薄れてしまっている。
 じっくりとその子を眺めていると、真矢先生に肩を叩かれた。
「真弓。ちょっといいか」
「……はい」
 僕は行くべきか迷ったけど、真矢先生に従った。
 道場の外に出ると、真矢先生は振り向きざまに僕に向かって頭を下げてきた。
「すまん。真弓の中学時代のことを謝罪させてほしい」
「ちょっと先生。やめてください」
 目の前で頭を下げる先生に対して、僕は必死になって頭を上げるように促す。やっとのことで頭を上げてくれた真矢先生は、僕の目を見て話を続けた。
「俺は真弓の早気に気づかなかった。精神的にも不安定だったはずの真弓のことを配慮せずに、最後の大会からも外してしまった。本当、指導者として失格だ」
 自らの過ちを語りだす真矢先生に、何も言い返せなかった。先生の言っていることは事実だとしても、僕には先生の言葉が胸に響いてこない。言葉ならいくらでも言えると思っている自分がいる。
「真弓の弓道人生を台無しにしたんだ。だから真弓にどう思われても仕方ないと思っている」
 真矢先生はそう言うと、道場内に視線を向けた。
「卒業した真弓に、俺は何もしてあげられることはないと思っていた。そんな時、的場から連絡が入ったんだ」
「的場先生……」
「弓道部の練習場所を提供してくれないかって。はじめはもちろん、断ってしまった。こっちも色々と問題を抱えていたから。だけど弓道部員のメンバーを見て、俺は引き受けるべきなんだと思った」
 真矢先生は僕に顔を向けると、笑顔をつくった。
「決して償いとまではいかなくても、俺は真弓の力になれることをしてあげたい。それが、自分の思い上がりでもいい。俺が、俺自身が真弓にしてあげたいと思ったことだから」
「先生……」