僕の視線に気づいた女性が近寄ってくる。最初は誰かわからなかったけど、表情がわかるくらいまでの距離になって、ようやく近寄ってきた女性が僕の知っている人だとわかった。
「こんにちは。真弓って言います。この間は、ありがとうございました」
「楠見ちゃん、見つかった?」
「はい。見つかりました」
「そう。よかった」
 屈託のない笑顔に心が動かされる。気を抜くと、この人の包容力の虜になりそうだ。
「あの、今日は先輩もお祭りに?」
「そうよ。私、地元のよさこいチームに入ってて。さっきまで踊ってたの」
「すごいですね。部活も大変なのに、よさこいもしているなんて」
「家族がよさこいやってるからね。最初は私も嫌々やってたのよ」
 先輩との会話が弾む。普段、凛以外の女性と話すことがほとんどない僕は少し緊張していた。一方、先輩の方は異性に慣れているのか、平然と僕と話をしている。
「真弓君はお友達とここに?」
「はい。部活仲間と一緒に来ました」
「そう。何部かしら?」
 先輩の質問に、僕は出かかった言葉を飲み込んだ。女子弓道部は男子弓道部を良く思っていない。それは目の前にいる女子弓道部員の先輩こそ、まさしく思っているのではないかと。
 それでも僕は、変化を求めて目の前の女性に言うことにした。
「男子弓道部です」
 言葉を放った瞬間、先輩は大きく目を見開いた。おそらく男子弓道部が存在していることに、驚いているんだと思った。
「弓道部……」
「はい」
 先輩は俯くと、僕に聞こえない声で何かを呟いた。そして身体を震わせていた。僕には先輩の状況が理解できなかった。もしかしたら男子弓道部の不祥事が許せなくて、憤りを感じているのかもしれない。
「ご、ごめんなさい」
「なんで、謝るの?」
 先輩が謝った理由を聞いてくる。僕は素直に思ったことを話そうと決めた。
「先輩も知ってると思いますが、男子弓道部の不祥事のせいで色々と女子弓道部にも非難が集中してしまったからです」
 自分が関わっていなくても、世間ではそんな言い訳が聞くはずもない。不祥事を起こした高校とレッテルを貼られてしまう。たとえ男子弓道部が起こしたことであっても、女子弓道部にも風評が立ってしまう。男子弓道部として、僕は謝罪をするしかなかった。