思ったことは直ぐに口に出す凛は、ほとんど話したことがない相手にも容赦はない。一方の古林は、猪突猛進(ちょとつもうしん)な凛とは正反対で泰然自若(たいぜんじじゃく)とした態度で僕にしか聞こえない様に話した。
「大変だな。真弓の苦労する姿が目に浮かびそうだ」
「ははは」
 古林の反応に僕は苦笑するしかなかった。
「それでお願いって何? 何かたくらんでるでしょ」
「ち、違うよ。たくらんでなんか。ねえ、真弓君」
「そ、そうだね」
 僕と高瀬は慌てふためく。そんな中、古林はいつも通りの落ち着きを見せている。
「怪しい……」
「なあ、楠見。俺らに道場で練習させてくれないか?」
 隠し事も一切せずに、本題をど真ん中に放り込んだ古林に、僕は開いた口が塞がらなかった。
「ごめん、それは無理だと思う。藤宮先生が厳しいから」
 凛にわずかな望みを託していた僕達は、大きな溜息を吐いた。やはり藤宮先生の壁を越えなければ道場の使用ができない。二月の大会までの練習場所が確保できない僕達は、とうとう窮地に立たされた。
「でも、私も掛け合ってみることにするよ。男子弓道部の応援したいから」
「ありがとう。楠見さん」
 高瀬は凛の手を取ると、爽やかな笑顔を晒す。しかし、凛は高瀬の笑顔を気に留めることもなく普段通りの笑顔をつくると、高瀬の手を離した。
「さあ、お祭り楽しもうよ」
「そうだな。楠見の協力も得られることだし、今は祭りだな」
 古林も凛と同じくらい言いたいことをストレートに表現するタイプみたいだ。今まで教室で誰とも話していなかった古林の性格が垣間見え、僕は嬉しくなった。

 ふささら祭りでは、毎年全国各地からよさこいのチームが参加して踊りを見せてくれる。僕達もそれを眺めながら屋台を回ったり、ふささら祭りと同時開催されている広場での祭りを見て回ったりと、一通り祭りを楽しんだ。
「ちょっとトイレ行ってくる」
「それじゃ、谷古宇(やこう)橋前に集合ね」
「うん」
 祭りも終わりを迎えた十六時過ぎ。凛たちと一時別れた僕は、簡易トイレに向かった。
 用を足し、集合場所に戻ろうとしたとき、見かけたことのある黒髪の女性が僕の前を横切った。その艶やかな長い髪を纏う女性は、見るものを虜にするくらい美しかった。
「あれ、君はたしか……」