ふささら祭りは、草加松原遊歩道(そうかまつばらゆうほどう)をはじめ、その近辺で毎年十一月に行われる祭りだ。僕は昔からこの祭りに翔兄ちゃんと凛の三人でよく来ていた。いつも自由奔放に歩き回る凛を、翔兄ちゃんがよく怒っていたこともあった。そんな感じで、毎年このお祭りには参加していた。
 唯一参加しなかったのは昨年のお祭りだった。翔兄ちゃんが京都に行ってしまったことと、僕が早気になって心を閉ざしていたこともあって、祭りに行くことはなかった。
 凛と久しぶりに会話した夜、十三時に集まろうと皆にメールを送った。高瀬と古林には謝罪の文章を添えて、来てほしいと頼んだ。二人とも直後に電話してきて、ふざけるなと言ってきたけど、渋々了承してくれた。
 一番乗りで集合場所についた僕は、目の前に広がる松並木(まつなみき)を眺める。いつもは静かで松の木が印象的な風景も、今日だけはお祭りの屋台で道中がにぎわっている。小さい子供が綿あめをおいしそうに頬張ったり、リンゴ飴を二つもらうためにじゃんけんに精を出しているおじいちゃんがいたりと、世代を超えて皆がお祭りを楽しんでいた。
「真弓君!」
 背後から僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。振り向くと、高瀬と古林がいた。
「二人とも、本当にありがとう」
「楠見が来るってことは、成功したんだよな」
「うん」
 僕が答えると、古林は安堵の表情を晒した。高瀬もよかったと胸をなでおろすように大きく息を吐く。
「それで、道場については話せた?」
「いや、まだ話せていない」
 高瀬の問いに答えた僕は、ごめんと謝った。
「謝る必要ないよ。今日みんなでお願いすればいいんだからさ」
「お願いって何のこと?」
「うわっ」
 背後から声をかけられた高瀬は、驚きのあまり思わず声を漏らす。まだ来ていないと思っていた凛が高瀬の後ろに来ていた。
「こんにちは。一がいつもお世話になっております」
「何を言い出すかと思ったら……僕の保護者ずらしないでよ」
 へへっと凛は笑顔を見せた。その笑顔を見たからかもしれないけど、高瀬の表情が明るくなった気がする。
「へぇ。どんなメンバーかと思ったけど、もう一人は古林君か」
「知ってるの?」
「うん。知ってるよ。一のクラスでいつも一人でいる人でしょ?」
「おい、凛。ごめん、古林君。凛の性格を最初に伝えておくべきだった」