「男子弓道部に戻ってきてほしいってお願いしたの。私も男子弓道部を潰したくなかったし、翔兄ちゃんのいた弓道部を失くしたくなかったから」
 凛は自ら行動を起こしていた。たぶん凛のことだから、ずっと先輩を誘い続けていたのだろう。そんな凛を想像すると、何故だか笑いがこみあげてきた。
「ホント馬鹿だな、凛は」
「ば、馬鹿って何よ」
 笑うなと言って僕をたたいてくる凛は怒ってはいなかった。自然と笑みがこぼれている。
「でも、凛の頑張りに気づけなかった僕のほうがよっぽど馬鹿だ」
「一……」
 凛は笑顔から一転、寂しそうな表情を晒す。しばらくの沈黙。僕の発言のせいで、空気が重くなってしまった。どうにかしようと、僕は言おうと思っていた本題を凛にぶつけた。
「明日のふささら祭りなんだけど、よかったら一緒に行かない?」
「えっ!」
「男子弓道部のメンバーも一緒なんだけどさ、どうかな?」
 二人きりだと、噂が再熱しかねないと思い咄嗟に口から出てしまった。後で高瀬達に色々と謝る必要がありそうだなと思っていると、凛はすまし顔で言った。
「珍しいね。一から誘ってくれるの」
 凛は僕の肩をポンッと叩くと、少し距離をとるように僕から離れた。
「いいよ。そのかわり、たくさん奢ってもらうからね」
「たくさんは勘弁してほしいな……」
 凛は笑みを見せると、そのまま道場に向かっていった。
 久しぶりに凛の笑顔を見れた気がする。今日まで凛と仲直りのきっかけを見出すことができなかったけど、高瀬と古林が背中を押してくれたこともあって、うまくいった。二人には感謝しきれないくらいに恩を受けた。今度は、僕が二人に何かしてあげたい。僕ができることは何だろう。そんなことを考えながら、僕は帰宅の途についた。