「……知ってた。だからこそ、真弓君には入部してほしかったんだ」
 俯いていた顔を上げた高瀬は、僕に視線を合わせてくる。固い表情で訴えかけてくるように、今度は視線を逸らさなかった。
「それにしても、全国優勝した経験ある真弓君に、中学からの経験者である古林君が入ってくれるなんて、鬼に金棒だね。これでようやくチームも組めるわけだ」
 直ぐに笑みを見せ、いつもの高瀬の表情に戻った。
 高瀬の言う通り、三人いれば一チーム組むことができる。これにより三人立の団体戦に出場できることになる。これは今の男子弓道部にとってとても大きなことだ。
「あとは道場を取り戻すだけか」
「古林君。道場使えないこと知ってるの?」
「高瀬に全て聞いたんだよ。こいつしつこく付きまとってくるからさ」
「だって弓道楽しいじゃん。やらなきゃ損だよ」
「そもそも高瀬は弓道やったことがないだろ」
「だからだよ。道場で練習できれば、もっと楽しくなると思う」
 屈託のない笑顔を晒す高瀬は純粋そのものだった。弓道を心から楽しもうとしている気持ちがひしひしと伝わってくる。
「とりあえず週明けにでも、一度的場の所に行くか」
「そうだね。古林君も一緒に行けば、的場先生も本気になるんじゃないかな」
「おい、本気じゃないのかよ。的場の野郎、調子乗ってるな」
 口調の悪い古林の言う通り、的場先生の危機感を煽らないと、いつまでたっても先に進まない気がする。
「僕達も動いたほうがいいんじゃないかな。先生だけに頼るのもどうかと思うし」
「真弓君の言う通りだよ。俺達も動こう」
「で、どう動くんだ?」
 古林の疑問に僕は答えられなかった。藤宮先生と会話して駄目だった。もう一度言いに行くことも悪くないかもしれない。部員が増えたと伝えれば、考え直してくれる可能性もある。でも、来年の二月までは藤宮先生は許可を出さないはずだ。あれだけ男子弓道部を馬鹿にしてきたのだから。
「それなら俺にいい方法があるよ。真弓君」
「いい方法?」
「女子弓道部の力を借りるんだよ」
 高瀬は自信があるのか、堂々と僕に告げた。
「でもそれって無理あるんじゃないかな? 男子と練習することを嫌がってるって、藤宮先生が言ってたよ」
「先生は嘘をついている……いや、先生自身も気づいていないと思う」
 高瀬の発言に、僕も古林も首を傾げる。高瀬の言っていることがわからない。