「というわけで、古林君。真弓君も弓道部に入ったから、一緒に弓道やろうよ」
 次の日の放課後。自席で帰り支度をしていると高瀬の声が聞こえた。爽やか王子の声が教室内に響き渡る。周囲の女子達は帰るのも忘れて、高瀬の方に視線を向けていた。
「真弓君。ちょっと来て」
 こっちこっちと高瀬が僕に向け手を振って来た。周囲の視線を感じつつ、僕は高瀬と古林の元へ歩を進めた。
「真弓、本当に弓道部に入ったのか?」
「うん。入ることにした」
 僕の返事を聞くなり、古林は僕に視線を固定する。一見冷めているような目つきだが、その深淵には誰よりも熱いものが眠っている気がする。僕は古林に自分のことを、全て見透かされているような気持ちになった。
 しばらくして、僕から視線を逸らした古林は高瀬を一瞥すると、ゆっくりと席を立った。
「それなら、俺も弓道部入るよ。よろしく」
「よ、よろしく」
 目の前に差し出された古林の手。それに応えようと僕も手を差し伸べ、がっちりと握りしめた。
「ところで、古林君に聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
「高瀬君から聞いたんだけど、どうして僕が入部していることが条件なんて言ったの?」
「高瀬から聞いてないのか?」
 古林は訝しむように、僕と高瀬に視線を向けてくる。僕と高瀬の反応を見るなり、古林は僕の疑問に答えてくれた。
「それは、真弓が中学の時に全国大会二連覇を成し遂げたからだよ」
 古林が発した言葉に僕は驚きを隠せなかった。高校生になって、誰にも話していないことが古林の口から放たれた。
 凛が話したのかもしれない。だけど、凛が古林と話しているところを僕は見たことがない。そもそもクラスが違う。それに、いつも一人でいる古林と活発で明るい凛という対角線にいる二人が関わることなんて皆無だ。
「ど、どうして知ってるの?」
 古林に問いかけてみる。すると、古林はあっさりと答えてくれた。
「俺も中学の時に弓道やってたから。全国大会二連覇を成し遂げた真弓のこと、中学から弓道をやっていて知らない奴はいないと思う」
「ということは、古林君は経験者なんだね」
「ああ。でも、未経験の高瀬も真弓のこと知ってたぞ。高瀬は一体何者なんだ?」
 古林の発言に僕はおもわず高瀬に視線を移す。それに合わせるように、高瀬は視線を逸らして俯いた。
「高瀬君。知ってたんだね」