「男子弓道部は来年の二月の試合でいい成績をおさめないと、道場が使えないんです。あと、僕は真弓です。眼鏡君じゃないです」
 僕は的場先生に藤宮先生と話した内容について伝えた。
「そうか。道場が使えないのか」
「はい。顧問の先生になってくださるなら、どうにかして藤宮先生と交渉をしてください」
「嫌だよ。藤宮先生、怖いし。美人なのに本当、もったいない」
的場先生は僕の提案を却下した。それにしても、本当に先生なのかと疑問に思ってしまう。臨時教師として採用した草越高校の心の広さに、僕は関心を覚える。
「それに、お前ら二人が藤宮先生の条件を受け入れたんだろ? なら頑張らないと」
 ぐうの音も出ない事実を言われた僕は、口を開くことができなかった。高瀬も俯いたまま口を結んでいる。
「まあ、練習場所くらいは探しといてやる。とりあえずできる練習から行っとけ。俺も高校の頃は一人でひたすら練習してたからな」
 さらっとぼっち発言をした的場先生は、そのまま僕達に背を向けて立ち去っていった。
「的場先生に頼んじゃって大丈夫かな?」
「俺も、真弓君と同じこと考えてた」
 二人して先生の背中を見送る。的場先生は的前で練習できる場所を探してくれると言ってくれた。でも、先程の先生の対応を見ていると「すまんな。無理だった」と平気な顔で言ってくるような気がしてならない。
「まあ、とりあえず今日は帰ろう。そして、明日もう一度古林君を誘ってみよう」
「でも真弓君、弓道部に入ってくれないんじゃ」
「あそこまで言われたんだ。正直、藤宮先生に馬鹿にされて悔しい」
「真弓君……」
「だから僕は弓道部に入るよ」
 迷いはなかった。言い終えた後、僕は自分の発言に驚きを隠せなかった。今まで弓道部に戻ることに躊躇いがあった。ずっと引きずってここまで来た。だけど、目の前で男子弓道部を馬鹿にされ、挙句の果てには翔兄ちゃんのことまでも馬鹿にされた気がした。それがとても許せなかった。今はその思いで動いているのかもしれない。だけどその思いが僕の悩みを打ち消してくれるのなら、今の流れに乗っていくのは悪くはないのかもしれない。翔兄ちゃんに託された弓道部。まずは弓道部を軌道に乗せようと決意を決め、僕は職員室を後にした。