藤宮先生はふーっと息を吐くと、高瀬に向けていた視線を僕に向け、口を開いた。
「あのね、私達女子弓道部は本気で全国目指してるの。部員達も頑張ってくれて、来年は真剣に狙える位置に来ているの。だから、あなた達に邪魔されるのは私も困るのよ」
「どうして邪魔になるんですか。弓道は教えあうのが一番大事なはず。それなら、僕達男子からの視線でしかわからない形もあるんじゃないでしょうか」
 教えあうことの大切さ。翔兄ちゃんから教わり、僕自身も実感していることだ。より多くの人の意見を取り入れてこそ弓道の技術は上達する。弓道というスポーツは日々の鍛錬の積み重ねと、人の教えを受け入れることが大事だ。
「あなた達の意見? 四月から弓にすら触れていない人の意見なんて聞いても、技術の進歩にもならないわ。逆に技術の低下につながりかねない」
 嘲笑する藤宮先生は、声高らかに僕の意見を否定してきた。先生の言うことにも一理ある。それでも、僕は藤宮先生の言葉に憤りを覚えずにはいられなかった。何か逆転の一撃を先生に食らわしたい。
 言い返せないまま黙っていると、にやりと笑みを見せた藤宮先生が続けて話した。
「そうね。そこまで道場が使いたいって言うなら、結果で示してもらおうかしら」
「結果……」
「来年の二月に、四月の関東大会予選に向けて強化試合を毎年組んでいるのよ。あなた達にも出場の権利をあげる。その時に、まあ個人でも団体でもいいから三位以内に入る成績を残せたら、道場の使用を許可するわ」
「本当ですか!」
 条件を聞いた高瀬は、希望の光を見つけたように喜んでいる。
「さあ、どうするのかしら?」
 不敵な笑みを浮かべている先生は、僕のことを挑発するかのように腕組みを崩さずに見つめてくる。隣の高瀬は、聞くまでもなく態度でやると言っている。後は僕が決断するだけだ。
「……わかりました。それで道場が使えるなら、練習試合に出ます」
 何もせずに終わることだけは避けたかった。可能性があるなら、挑むことをしてもいいはずだ。それに、男子弓道部をのけ者扱いする藤宮先生のことが許せない。腸が煮えくり返るくらい憤りを覚えた。僕自身の弓道を馬鹿にされた気がした。そして何より、翔兄ちゃんに教わった弓道を馬鹿にされた気がして許せなかった。
「そう。楽しみにしてるわ」
 藤宮先生はそう言い残すと、荷物をまとめて職員室を出て行った。