「気が変わった。やっぱり翔兄ちゃんと一緒に食べたい」
 じゃあねと手を振った凛は、スカートを翻しながらそのまま出口へと向かっていった。

 家に帰ると、僕はベッドに倒れこんだ。本日二回目の行為。だけど一回目とは違う気分だった。少しだけ見えていなかった答えが見えた気がする。
 顔を上げ、部屋の隅にある棚を見る。全国大会個人の部で二年連続優勝した時のトロフィーや表彰状が飾ってある。たった二年間だけの栄光がそこにはあった。
 一度輝けたんだ。それなら、もう一度輝くことも可能なんじゃないか。弓道に触れ、関わることで見えてくる何かがあるんじゃないか。
 決意を固めようとしてみるも、僕の頭に浮かんだのは早気だった。どうしても早気が僕を縛り付ける。僕に弓道をするなと問いかけてくる。
 ――初めて弓道をする人達に、弓道の楽しさを伝えてやれ。お前にならできる。
 翔兄ちゃんの言葉が脳内で再生される。昔から憧れの人で、僕の中で弓道を輝かせてくれた張本人。どうして翔兄ちゃんは僕にできると言ったのだろう。今の僕には楽しい気持ちを伝えられる自信はない。中学の弓道部で皆の期待を裏切った。今日だって大切なライバルを失望させた。そんな自分がいきなり弓道部に入って指導するなんてできるはずがない。
 色々と考えていたら眠くなってきた。今日は久しぶりに早起きをして外に出た。休日に外に出ることがめったになかった僕の身体は、疲労で悲鳴を上げているみたいだ。とりあえず週明けからは凛の形を見なきゃいけない。
 今日の凛をさらに輝かせたい。そんな願望にとらわれながら、まどろみの世界に記憶が吸い込まれた。