凛は笑顔で応えると、自分の分を作るために台所に向かった。
 瞬間、僕の脳裏にとある記憶が蘇る。
 あっ、まただ。
 凛の背中を見ていると、昔を思い出す。
 今食べたオムレツの温かさが、その思いを何倍にも膨らませる。昔、僕にオムレツを作ってくれた母さんの記憶。
「あのさ」
「ん? 何よ。おかわりはないからね」
 凛は微笑んでいる。
 こんなにも暖かい笑顔をする人の近くにいることができる。
 そんな凛に僕は伝えたかった一言を言った。
「これからもよろしく」
 下を向きながら、凛に伝える。
 少しだけ勇気を出した、今の僕なりの発言だ。
「何言ってるの? 当然でしょ。これから関東大会やインハイと大きな大会に挑むんだから。一は私が行けなかった時の保険なんだよ。わかってるよね!」
 凛はくるりと僕の方に身体を向けると、満面の笑みを見せてきた。
 僕はこのときに確信した。
 これからもこの笑顔の隣で、大好きな弓道を続けることを。
 大切な仲間や支えてくれる多くの人に、自分の射を届けることを。
 それこそが、僕が弓道を続ける理由なのだから。