翔兄ちゃんをはじめ多くの先輩方が築き上げてきた、男子弓道部のイメージに泥を塗る出来事を払拭できる結果を残せた。
 これは今後の弓道部にとって大きな財産になる。三連覇を成し遂げた時みたいに、多くの生徒達が入部してくれるかもしれない。
 これから始まるインハイや関東大会に向け、大きな力となる戦力が加わるのも、時間の問題かもしれない。
 ピンポーン。
 インターホンが鳴り響いた。僕は玄関に向かい、ドアを開ける。
「おっす」
「おはよ」
「中、入るね」
「うん」
 目の前に現れた凛は、既に制服に着替えていた。
「疲れてない?」
「うん。大丈夫」
「そう。あっ、今日は朝ごはん作りに来たんだ」
 そう言って微笑むと、凛は調理の準備を始めた。
 教えてもいないのに、フライパンの位置や冷蔵庫の中身を覚えている。
「関東大会出場、おめでとう」
「おめでとうって、一達も出場決めたでしょ。お互いおめでとうだよ」
「そうだね」
 僕の心の中に、凛はいつも割り込むようにして入ってくる。
 小さい頃から、凛と一緒にいることが当たり前だった。でも、その当たり前は僕に大切なことを忘れさせていた。
「でも、私はAチームとして出場できなかった。先輩達のおかげで関東大会の本選に行けるんだよね」
 男子とは別日に行われた女子弓道部予選会。女子弓道部は予選会を二位で通過した。僕と同じく、チームの落を務めた雨宮先輩が皆中を連発してチームを勝利に導いた。
「先輩、本当にすごかった」
「うん。楓先輩がいなかったら、関東大会に行けなかったかもしれない。先輩にはみんな、本当に感謝していると思う」
 予選会を突破した後、チームメイトに囲まれていた先輩は泣いていた。先輩が求めていた理想のチームが、この予選会で実現できたんだと思う。
 もう先輩は大丈夫。
 そう思うことができるくらい、微笑ましい光景だった。
「でも、凛はまだ諦めてないんでしょ?」
「当然。私はインハイ予選までに、絶対にAチームに入るんだから」
 凛は笑顔をみせると、出来上がった料理を僕の前に運んできた。
「はい。今日はオムレツ作ったから」
 目の前に出されたオムレツは、綺麗な黄色だった。口に含むと、暖かな陽だまりに包まれているような感覚に陥る。
「美味しい……」
「当然でしょ。私が作ったんだから」