僕が口にしたかった言葉を、高瀬が先に口にする。
「どうして高瀬君がありがとうって言うのさ」
「だってこんな最高の試合ができたのも、真弓君が弓道部に入ってくれたから。入ってくれなかったら、こうして試合すら挑めなかったんだから」
「そうだな。真弓のおかげだ。ありがとな」
 普段はお礼を一切言わない古林までもが、お礼を言ってくる。
 古林の顔が赤くなっていた。
「僕は……僕は、みんながいたから弓道を続けようと思えた。こんな僕と一緒に弓道を続けてくれて、本当にありがとう」
 僕は二人に向かって頭を下げた。
 今日の試合は本当に楽しかった。
 勝つことに執着したり、チームの為に諦めない射ができたり。
 まるで昔から一緒に弓道をしているような錯覚に陥った。
 それくらい、今の立は素晴らしかったと思う。
「一!」
 頭を上げ、声が聞こえてきた方に視線を移す。そこには橘の姿があった。
「橘……」
「最高の試合だったな」
「うん」
 僕は橘に左手を差し出す。それに応えるように、橘も左手で僕の手を握った。
「俺は言ったよな。一なら、早気を克服できるって」
「うん」
「やっと戻ってきてくれた。俺の知ってる一が」
「……うん……」
 橘の一言に、溜まっていたものが一気に溢れた。立の時に必死にこらえたものが、今になって僕の頬を伝う。
「一のチーム、いいチームじゃん。本気でぶつかってきてくれて、嬉しかった」
 橘の言葉に、僕はひたすら頷くことしかできなかった。
 目の前の親友と呼べるライバルに、僕自身が背負った問題を背負わせてしまった。橘に対して、本当に頭が上がらない。
 今日の試合で僕はまた歩み出すことができた。
 橘とは大きな差がついてしまったと思う。
 でも、ここから始めればいい。
 僕達にはたくさんの時間が残されているのだから。