試合中は仲間を信じることしかできない。でも、その信じることこそが弓道では大切になる。
 チーム力が問われる団体戦。一人の結果がチームを左右する。
 だからこそ、生半可な気持ちで取り組むことは許されない。
 高瀬も、古林もそれはわかっている。僕達は繋ぐ思いを胸に、どこにも負けないチーム力があると信じている。
 だから高瀬は必ず中ててくれる。
 カッ。
 高瀬が放った矢は、的を掠めて安土に刺さった。僕達の思いを乗せた矢は、無情にも的に中らなかった。
 高瀬は残心の姿勢のまま、しばらく動かなかった。そしてゆっくりと弓倒しをして、退場していく。
 古林は目の前の高瀬を気にすることなく、そのまま会に入った。その横顔からは、どんな気持ちを抱いているのか理解することができなかった。
 パンッ。
 古林は四射目を中てた。古林の射を見届けてから、僕は打起しに入った。
 高瀬と古林の射が終わり、残すは僕の射を残すのみとなった。
 大三をとった僕は引分けに入る。
 観客の視線が僕に集まっているのがわかる。
 注目される中で射をするのも落の役目。
 チームの集大成である落は、最後の一射は必ず中てなければいけない。
 落はチームの花形。
 高瀬と古林が落に推薦してくれた。僕がチームの顔だと言ってくれた。だからこそ僕は、そんなチームメイトにも見せないといけない。
 ずっと見てくれている、多くの観客に見せないといけない。
 今まで僕を支えてくれた、翔兄ちゃんや雨宮先輩。
 僕のことを最後まで引き留めてくれた橘。
 そして、早気で苦しんでいる時、いつも傍に居てくれた凛。
 僕の弓道人生に関わってくれた人達に、見せないといけない。
 これが、この一射こそが。
 真弓一の弓道だと。
 パンッ。
 静寂が道場を包み込む。
 残心の姿勢のまま、僕は的を見続ける。そしてゆっくりと弓倒しをした。
 瞬間、大きな歓声が道場内に広がった。
 僕達に対して、初めて大きな声援が飛び交う。
「そっか。皆中したんだ」
 小さく呟いた僕は、足踏みを戻して退場口に向かう。
 その間も拍手は鳴りやまない。
 立の最後の一人となった僕は、惜しみない拍手に礼をして退場口から出た。
「真弓君!」
 退場口付近にいた高瀬は、頭を叩いて祝福してきた。
「あ、あ」
「ありがとう!」