「そ、それこそ無理だよ。僕は弓道を教えるほどの実力はないし、翔兄ちゃんみたいに上手くない」
 絶対に無理だと思った。たった三年間しか僕は弓道に関わっていない。しかも三年間のうちの一年は、まともに弓道と向き合えていない。
「上手い、下手は関係ない。一は中学の時、誰に弓道を教わったんだ?」
「それは、顧問の先生と……あっ!」
「気づいたな」
 僕の声が上擦ったのを聞いた翔兄ちゃんは首肯すると、肩に手を置いて視線を合わせてきた。
「一は、少なくとも同級生と同等かそれ以上に弓道やってきてるんだ。弓道で大事なことは、的に向かって射ることだけじゃない。先輩から教わったことが一番大切だと言っても過言ではないんだから」
 翔兄ちゃんの言うことに、僕は静かに頷いた。
 確かにそうだ。中学校の弓道部では、顧問の先生をはじめ多くの先輩方に射形を教わった。何より、目の前にいる翔兄ちゃんから大切なことを学んだはず。でも、今の僕は早気の克服ができないことを理由に弓道から逃げようとしている。こんな僕に、誰かを指導することなんてできるのだろうか。
「初めて弓道をする人達に、弓道の楽しさを伝えてやれ。お前にならできる」
「……少し考えてみるよ」
 笑顔を見せる翔兄ちゃんに僕は頷いた。以前よりも気持ちが軽くなった気がした。

「えー翔兄ちゃん来てるの?」
 快活な声が響き渡る。翔兄ちゃんと別れてから、僕と凛は近所のファミレスで合流した。予定よりも早く大会が終わったみたいで、凛は十五時過ぎに連絡をいれてきた。
「声のボリューム下げろよ。公共の場だぞ」
「そんな大事なことを言わなかった一が悪いんだからね。あー翔兄ちゃんに会いたい」
 凛が騒いでいると、店員さんが急いで注文した品物を持ってきてくれた。駄々をこねていると思われたのかもしれない。僕は店員さんに申し訳ない気持ちを込めて、軽く頭を下げた。
「それで、パフェでいいの? 僕は夕飯を奢るつもりだったんだけど」
「まだおやつの時間でしょ。だからパフェでいいの」
 目の前にはクリームたっぷりのチョコバナナパフェが屹立していた。凛がスプーンでクリームを取り、口にいれる。
「あっ、もちろん夕飯も奢ってもらうからね」
「おい、そんなの僕聞いてないぞ」
「翔兄ちゃんのこと黙ってる一が悪いんだから!」