『私のことは〝りず〟って呼んでね、きらるん』


出会いたての頃、そう言って完成された隙のない笑みを僕に向けた莉珠。

それは、男に慣れてるんだろうなって印象の笑顔だった。


そんな莉珠は、僕が自販機から帰ってくると、ベンチに座ったままあどけない寝顔を見せていて。


「無防備すぎ。変な虫がわいてくるだろ」


呟きながら、自分の声に棘があることに気づいていた。


──さっき、ココアをホットかアイスどちらにするか聞こうと戻ってきた時、偶然莉珠と森瀬が話しているのを見つけてしまった。


(あんなに幸せそうに笑っちゃって)


「……ほんと、人の気も知らないで」


不満をこぼすように呟き、莉珠の長いブロンドの髪をそっと撫でた。

そんなこととはつゆ知らず、スースーと穏やかに眠ってる莉珠。


『いつか莉珠の想い、伝わるから』

──想いが伝わる日なんて来なければいい。


「森瀬となんてくっつくなよ。僕にだけ笑っててよ、莉珠」


こぼした本音は、誰に届くことなく溶けていく。