森瀬とは物心つかない頃からの付き合いだけど、お互いモテるせいで、一緒にいるとあることないこと誤解されて碌なことがないから、幼なじみだということは周囲に隠している。

だからきらるんも、まさか私と森瀬が幼なじみだとは思っていない。


「わざわざこんな遠回りなことしなくても、他にやり方なかったわけ?」


「これしか思いつかなかったんだもん。でもこれで私ときらるん、友達以上の関係になれたでしょ?」


笑顔の私とは対照的に、森瀬の顔は曇ったままだ。


「吉良に言わなくていいのかよ。来月転校すること」


まったくもう、森瀬は。こんなに楽しい尾行デートをぶち壊すようなこと言うの、ダメなんだからね。


私は笑顔を残したまま、目だけを伏せた。


「うん、言わない。きらるんに変な気を遣わせたくない。なんてことないありふれた時間を、一緒に過ごしたいの」


最初は一目惚れだった。

だけど、知れば知るほど好きになって。


──『彼ね、クールかと思ってたけど実は喜怒哀楽の表現が豊かだし、困ってる子がいたら放っておけない優しい人なの』


名前を呼ばれるたび、胸が高鳴る。

まるで愛の言葉でも囁かれてるみたいに。


好きって言葉は今までたくさん貰ってきたし、その分当たり前のように返してきたけど、きらるんに名前を呼ばれることの方が、よっぽど重みがあって。


今きらるんの心の中を独り占めしてるのは私なんだ、ってそう思うから。