「あっ! きらるん! 森瀬くんがコーヒー飲んだ!」


「うん、いちいち報告しなくていいから。っていうか、そのきらるんって呼び方いい加減やめてくれない?」


「え〜っ? 吉良って名字で呼ぶより、特別感があって可愛いのに〜っ」


私は双眼鏡を持つ手を下ろして、反転させていた体の向きを元に戻しながら、ベンチの隣に座るきらるんに向かって頬を膨らませた。


すると、きらるんが大きな目をかっと開いて、片手で私の口を塞いでくる。


「ちょっと、莉珠(りず)声大きい! 森瀬に気づかれるってば!」


「あ、ほうらっら」


まずいまずい、大声厳禁だった。

なんてったって、私達は森瀬くんを尾行なうなのだから。


二人して帽子を目深に被り、おまけに片方は双眼鏡を肩から掛けているというこの図は、傍から見たら完全に異様だ。


なぜ森瀬くんを尾行しているか。

それは、私が彼に恋をしてしまったからだ。


告白する前に森瀬くんのことをしっかり知っておこうということで、こうやって尾行している。


そして今隣にいるきらるんは、森瀬くんのクラスメイト。

告白するのにひとりじゃ心細かったから、助力を仰いだってわけ。


きらるんに頼み込むこと、実に1ヶ月ちょい。

告白が成功したら、大好物のチョコレートパフェを3杯奢るという約束で、なんとか協力することを承諾してもらった。