お寺や神社が好きなわけではない。それなりに授業で習った程度にしか歴史も興味がない美月は、ただの暇つぶしと興味本位から平等院を目指した。十円玉の表側に当たるあの場所に行ってみようと、なんとなくの思いつきだった。
　学校を出てからずっと歩きっぱなしの美月は、残暑の暑さに思わず背中に汗をかいていた。

「暑いな……」

　手でひさしを作りながら空を見上げる。スクールバックの中からペットボトルの水を取り出し、蓋を開ける。ぬるくなった水が、美月の喉に吸い込まれていくように流れ込んでいき、やがては消えていく。
　そばにコンビニがあるのを見つけて、空になったペットボトルをリサイクルのゴミ箱に捨てた。

　新しく飲み物を買おうか悩むが、今すぐに飲みたいわけでもないため、美月は再び歩き始める。スマホのマップが指し示す方向へ。

（もし喉が渇いたら、お店のどこかに入って涼もう。冷たい抹茶アイスを食べるのもありだよね）

　宇治といえばお茶。宇治といえば抹茶。美月は抹茶味のお菓子が大好きだった。特にアイスの抹茶味は大好物で、京都に引っ越すことになった時、美月のテンションが上がったのはそれだった。

（ついでにバイト募集とかしてたらいいな）

　それは淡い期待だとわかっていても、もしかしたらという可能性を胸に抱いていた。
　高校の同級生はよくひとりでカフェやその他の飲食店に入れないと言っていたが、美月は違う。むしろひとりの方が気が楽だった。
　基本的に誰ともつるまず、前の学校でもさして仲の良い友人はいなかったのだ。
　未熟児で生まれた美月は、そのせいでなのか、美月の顔はファッションモデルのように顔が小さい。その上瞳は大きく顔のバランスは整っているため、男子からはよくモテる。女子は逆で、モテる上に美月が女子とつるまないせいで嫌煙されていた。

（平等院鳳凰堂って、堂がつくくらいだからお寺よね？　お堂の堂から来てるんだよね？）

　ふと、自分は何の情報も持っていないことに気づき、手に握りしめていたスマホを開く。マップが示す最短の道を見て、その道から外れていないことを確認した上で、インターネットを開いた。
　平等院鳳凰堂と検索エンジンに入力すると出てくるウィキペディアのページは無視する。美月はウィキで調べ物をするのはあまり好まない。誰でも書き込める上、誰が書いたか、情報は確かなのかが判断できないからだ。さすがは世界遺産で硬貨のイラストになっているだけあってか、公式ホームページは検索ページの一番上だった。
　美月は平等院の公式ホームページをクリックする。