物心ついた頃からあやかしが見えるようになった。
誰かに伝えると、それは幽霊であるとか、あやかしであるとか回答に的を得ない。

幽霊とあやかしに然したる違いはないのではないだろうか。

小さい頃は、好奇心でそんな得たいの知れないモノに話しかけては怖い思いをしたものだ。

相手には自分が見えていないと思っているところに、見えてますよと話しかけると、執拗に構ってくればかりに追いかけてくるのだった。
当時は得体のしれないモノが見えると泣き叫び、親が除霊を依頼するほどまで手を焼かせたものだった。

高校生になった今では、そういったモノに対処する術を失敗と経験から学び取ることができるようになった。

①相手があやかしだろうが幽霊だろうが見えてないフリをすることだ。
これが一番である。

②それでも万が一、相手に自分が見えていると知られれば、話しかけられても無視をすることだ。

③無視をしていてもしつこい場合、少しだけ話相手になり、自分のできる範囲であれば、相手の要望を叶えることである。
相手の要望が叶えられると、その姿は消える。
この手の問題は、個々のあやかしに対応していたらキリがないというところである。

④最後に止むを得ない場合は、強制除霊である。
これはできれば使いたくない。

慣れてくるとこの人は、人ではない別の何かであると容易に判断できるようになったため、当面は①でやり過ごすことができていた。

だが、高校2年のある日、一人の少女に出会い、不覚にも相手に気付かれてしまったのだ。

その日は昼休みに友達数人のグループと図書室に来ていた。
いつも利用者は僕ら以外には誰もいない。
適当に雑談する場所としていたため、本来の利用目的を守っていなかった。

だが、今日は一人だけ先客がいたのだ。
机の隅で本を読んでいる少女。
クラスで見かけない生徒だった。

仲間の一人が少女の近くで雑談をし始めた。
最初は僕も少女に申し訳ないと思いながら雑談をしていた。
少女は何事もないように読書を続けていた。

やがて仲間の一人が少女の椅子に手を掛けた時、「やめろ!」と声が出ていた。
急に大きな声がでたため。仲間が訝し気な顔をした。
「どうしたんだ、高宮」
「そこの椅子に人が座っているだろう」

僕がこの言葉を発した時、今まで読書にしか目がなかった少女が急に僕の方へ振り返ったのだ。
その目は今まで待ち焦がれていて、ようやく出会うことができたという目の輝きを放っていた。

「何言ってんだ、高宮。
ここには俺たち以外に誰もいねえよ。
空白の椅子に座って何が悪いんだ?」

僕は頭を何かで殴られたような衝撃を受けた気分になった。
そうか、そういうことか。
こいつらには見えていないんだ。
それはつまり・・・・

「すまない。変なことを言って俺が悪かった。
今日はもうこの部屋をでるよ」

俺は図書室を飛び出した。

走る。校内の遠いところに、願わくば彼女が追いかけてきてませんように。
階段の途中で息を整えていた。

「ねぇ、君は私のことが見えているんでしょ?」

目の前に図書室の少女がいた。
僕は息が整う間もなく、走りだそうとした。

「待って。お願い、私の願いを聞いて」

僕は観念することにした。

「やっぱり私のこと見えてるんじゃない。」

「担当直入に聞くけど、君の願いはなに? 僕でも十分に応えてあげることができるの?」

「話が早くて助かるねぇ。君ならできると思うよ」
「私の願いはね、他の人には見えない私を、君だけが見えているように日常を送って欲しいの」

「それってかなり変な人じゃないのか?」

「良く言って変な人だろうね。それでも君にやって欲しいの。」

除霊もかわいそうなので、僕は仕方なく了承することにした。

彼女の指定は遊園地に行くことだった。
入場券はもちろん二人分、受付スタッフは一人分で十分と言ってくれたが、ゴリ押しで二人分の入場券を通した。

絶叫マシンも一人分の間隔を空けてもらった。
休憩で食べたパフェも二人分を注文して、彼女は食べたふりを堪能して、僕が二人分のパフェを食べた。
周りの人がおかしな目で僕を見ていた。

夕方に雨が降ってきたので、一本の傘をさして彼女を共有した。
道行く人が、少年の右肩がずぶ濡れになっていることを疑問視していた。

雨が止み、僕たちは最後に観覧者に乗った。
カップルが多く乗る中、独り身の僕を係員は温かい目で僕を見ていた。

最上の位置に来た時彼女は「もう消える」と言い出した。
僕は「そうか」答えた

「ありがとう。高宮君」

彼女の身体から光の粒子が発生し、消えていった。
消えゆく彼女の身体が光り輝いていて綺麗だった。

消える間際に彼女が僕にキスをしてくれた。唇が合わさった感触はなかったけど、とても綺麗だった。

やがて、キスの終わりと共に、彼女は消えていなくなっていた。