俺がそう言うと、冗談だと決め込んだらしい姉は、それ以上何も言わずにポテトチップスを口に運んだ。

 いろいろあって、喉がカラカラだった。潤いがほしくて、俺は冷蔵庫を開けて飲みかけのスポーツ飲料のペットボトルを取り出した。――すると。

 インターホンが鳴った。ちょうど近くにいた姉が、通話ボタンを押す。俺の家のインターホンは古いタイプで、モニタはついておらず声だけしか聞こえない。

 すでに夜八時を回っている。こんな時間に来客とは、珍しい。宅配業者だろうか。そんなことを思いながら、スポーツ飲料をごくごく飲み始める。


「はい」

「夜分遅くに申し訳ありません。私、旭くんと同じクラスの西園寺麗華と申します」


 それを聞いた瞬間、盛大にスポーツ飲料を噴き出してしまう俺。「汚い」と姉は顔をしかめながらも、インターホン越しにこう言った。


「あ、今弟は」

「いない……! いないって言って……!」


 インターホンのスピーカーに声が入らない様に、俺は小声で姉にそう訴える。姉はニヤニヤしながらも、頷く。


「ごめんなさい、弟はまだ帰ってきてないんです」

「そうですか……。とても大事な用があったのですが……。待っていれば弟さんはご帰宅なさるでしょうか?」

「今日はちょっと、帰ってくるかわからないですね。いつも友達の家を泊まり歩いてるような奴なので」

 
 姉ちゃんナイス。ありがとう。本当にありがとうございます。


「……わかりました。それでは、失礼いたします。夜分遅くに申し訳ありませんでした」