以前に麗華が迫ってきたときのような、困った、逃げたい、早くあきらめろ、という気持ちは一切湧き上がらなかった。

 麗華は未来はどうなるかはわからないと言った。俺にだって、まだどうなるか分からない。まだ彼女に恋をしているかと言われれば、違うと言い切れる。

 ――しかし。

 麗華に出会う前の俺に、未来なんてなかった。過去に心を置き去りにたまま、俺の時間は止まっていた。

 凍り付いていた俺の時が、やっと動き出したことは確かだった。「未来なんてない」から、「未来なんてどうなるかわからない」。大幅に事態が変わったことは、確実だった。

 ――とりあえず、この下品な髪の色を少し落ち着いたトーンに戻そうか。

 俺はセバスチャンから受け取った挨拶品の紙袋を固く握りしめて、軽く笑みを浮かべながらそう思ったのだった。