ドアを開けると、そこには満面の笑みを浮かべた麗華が立っていた。ノースリーブのシンプルなデザインのシフォンワンピース姿が、眩いほどに可憐だった。少し後ろには、セバスチャンが恭しい様子で頭を少し下げている。最初の男性の声は、彼だったのか。


「麗華さん……? え、隣に越してきた……? え……?」


 事態がよく把握できず、俺は細切れにたどたどしく言葉を紡ぐ。心臓の方はやたらとばくばくと波打っていた。


「そうよ。隣に引っ越してきたの。ちょうど土地が空いていてよかったわ」

「は? え……?」

「あの後いろいろ考えたんだけど、やっぱり私あなたのこと好きみたい。夏休みになって顔が見られなくなって、もう耐えられなくなったの。だから急いで隣に引っ越してきたってわけ」

「なるほど」


 口ではそう言ったものの、お嬢様のやることのスケールにびびっていた。俺に近づくために土地を買ってあのお洒落な家を建てたということだ。一般庶民の感覚では到底理解はできない行動である。


「いやでもさ。麗華さん『今の私じゃどうにもできない』って言って、俺のことは諦めたんじゃなかった?」


 春香の墓石の前での会話を思い起こしながら言う。死んだ恋人への未練を捨てきれない俺を、麗華は見限ったのではなかったのか。


「そうよ。でも『今の私じゃ』って言ったでしょ。つまり未来は誰にもわからないということよ。それにすでに今は、あの時の『今の私』ではないわよ」