事も無げに麗華は言ったけれど、美しい脚を俺のせいで傷つけてしまったのは、ひどく申し訳なかった。


「いや……本当にごめん。俺がぼーっとしてたせいで。本当に、ごめん」

「……旭くん。さっき死んでもいいと思っていたでしょう」

「えっ……」


 見抜かれていたことに虚を衝かれる。麗華のことは、世間知らずのお嬢様だと思いこんでいた。物事に対して深読みせず、表面的なことですべてを良しとするような。しかし、それは俺の思い違いいだったのかもしれない。

 俺は俯いて「ごめん」と小さく言った。――すると。


「謝るんなら、最後に私のお願いを聞いてよ」

「え?」


 意外な麗華の言葉に俺は顔を上げる。彼女はどこか気の抜けたように笑っていた。張りつめていた気持ちが緩んだような、そんな面持ちに見えた。


「あなたの心が、ここに眠っている子に奪われていることは分かった。今の私じゃきっとどうにでもできない。だけどやっぱり、私はあなたが好きみたい。だから最後に、私を抱きしめてほしい」


 俺のふしだらなからかいに簡単に赤面してしまう麗華にしては、大胆なお願いに思えた。しかし彼女が求める抱擁にはきっと性的な意図はない。それならそこまで大胆もないかもしれない。

 だから俺は、麗華を真顔でじっと見つめた後、背中にそっと手を回して、彼女をしばらくの間優しく抱きしめたのだった。


「さようなら。死なないでよね」


 その後、何かを吹っ切ったような明るい笑みを浮かべて麗華はそう言うと、しっかりとした足取りで墓地から出て行ってしまった。