俺は疲れたように笑う。
「あなたとは苗字が違うその墓石は、誰のお墓なんだろう、ってずっと気になっていた。でももうなんとなくわかる。そこに眠っているのは、あなたにとって大切な女の子なのね」
「そうだよ。俺の恋人。二年前に死んだ。俺が本気で恋をした、唯一の人だよ」
はっきりと俺がそう言うと、少しだけ麗華の頬がぴくりと動いた。
「二年前……。彼女のことは今でも忘れられないの?」
「うん。たぶん一生忘れない。春香は一生俺の心に生き続ける。だから俺が、麗華さんの気持ちを受け入れることはできない。絶対にできない」
「…………」
麗華は眉間にしわを寄せ、歯がゆそうな顔をした。これで分かってくれたらいいなとぼんやりと思った。
俺の心は、春香の死と共に死んでいる。今後一生、生きている人間に前向きな想いを抱くことは決してない。
しばらくの間、俺たちは春香の墓石の前で並んで立ち尽くした。ふたりとも言葉は発さない。俺は言いたいことはすべて言ったし、麗華ももう俺に言うべきことはなかったのだろうと思う。
――すると、その時だった。
墓石が少しだけ動いたように見えた。最初は風のせいかと思ったが、すぐに違うことに気づく。グラグラと地面が波打つように蠢いたのだ。
地震だった。遅れてスマホの緊急地震速報が鳴る。震度がかなり高そうな揺れに思えた。
避難だの、脱出だの、そんな考えが頭をよぎり始めた時だった。
春香の墓石が、俺めがけて倒れてきたのだ。あまりにも突然のことで、身動きが取れなかった。重量感のある墓石が倒れる様子が、スローモーションで俺の目に映る。
「あなたとは苗字が違うその墓石は、誰のお墓なんだろう、ってずっと気になっていた。でももうなんとなくわかる。そこに眠っているのは、あなたにとって大切な女の子なのね」
「そうだよ。俺の恋人。二年前に死んだ。俺が本気で恋をした、唯一の人だよ」
はっきりと俺がそう言うと、少しだけ麗華の頬がぴくりと動いた。
「二年前……。彼女のことは今でも忘れられないの?」
「うん。たぶん一生忘れない。春香は一生俺の心に生き続ける。だから俺が、麗華さんの気持ちを受け入れることはできない。絶対にできない」
「…………」
麗華は眉間にしわを寄せ、歯がゆそうな顔をした。これで分かってくれたらいいなとぼんやりと思った。
俺の心は、春香の死と共に死んでいる。今後一生、生きている人間に前向きな想いを抱くことは決してない。
しばらくの間、俺たちは春香の墓石の前で並んで立ち尽くした。ふたりとも言葉は発さない。俺は言いたいことはすべて言ったし、麗華ももう俺に言うべきことはなかったのだろうと思う。
――すると、その時だった。
墓石が少しだけ動いたように見えた。最初は風のせいかと思ったが、すぐに違うことに気づく。グラグラと地面が波打つように蠢いたのだ。
地震だった。遅れてスマホの緊急地震速報が鳴る。震度がかなり高そうな揺れに思えた。
避難だの、脱出だの、そんな考えが頭をよぎり始めた時だった。
春香の墓石が、俺めがけて倒れてきたのだ。あまりにも突然のことで、身動きが取れなかった。重量感のある墓石が倒れる様子が、スローモーションで俺の目に映る。