そのセバスチャンが車から降り、俺に深々とお辞儀したかと思ったら、彼は後部座席のドアを慣れた動作で開けた。そして中から、仏頂面をしている麗華が出てきたのだ。

 麗華は、俺のクラスメイトだった。容姿端麗、頭脳明晰、その上父親が誰もが知っている大企業の社長という、何度目の転生か分からないほどに恵まれた完璧美少女だった。

 真面目で教師陣からの信頼も厚く、少々高飛車な物言いはするけれど、裏表のない性格で友人もたくさんいるようだった。ざっと教室の男子を見渡した感じだと、彼女に本気で恋をしているのが三割、あわよくば付き合いたいと思っているのが四割、住む世界が違うからとりあえず夜の妄想に使っているのが三割といったところだろう。ちなみに俺は、最後のカテゴリ-に属する。

 人当たりのいい麗華だったが、俺はどうやら嫌われているらしかった。今までほとんど話したことは無かったが、雰囲気でなんとなく分かっていた。すれ違いざまにふと目が合った時に、腐った生ゴミでも見るような目をされた記憶がある。

 麗華に嫌われる心当たりは、一応あった。

 以前に「麗華ちゃんはどういう人が好みなの?」と、麗華が女子に聞かれていたところを偶然通りすがったことがあった。その時、「好みは分からないけど、不真面目で適当な人は嫌いかな」と彼女が言っていたのを覚えている。

 俺は、髪を煌びやかな金色に染めて、耳には大きなシルバーのフープピアスぶら下げ、制服もこれでもかというほど着崩している。もちろん全部校則違反で、教師にすれ違う度に注意を受けている。その上、サボりによる遅刻・早退は日常の一部になっている。