春香の月命日が休日なのは久しぶりだった。

 最近の月命日は、放課後急いで花屋に行ってバラを購入し、墓参りに行くことが多かった。しかし今日は、朝から春香の元へと行ける。嬉しさと寂しが入り混じった、落ち着かない気分だった。

 バラは棘があるためか、墓参りには適さないというのが俗説である。しかし、春香は自宅の庭に小さなバラ園をこしらえるほど、バラを愛していた。

 そうなると、俺と春香の間に俗説など意味をなさなくなる。俺は春香が特に好んでいた白バラを、墓参りのたびに彼女の墓に供えていたのだった。

 購入した白バラ二輪を携えて、俺は彼女の墓石の前にたどり着いた。本当はボリュームたっぷりの花束をプレゼントしたいところだが、生花というものは高校生にとって非常に高価だ。そういうわけで毎月、墓石の前のふたつの花立てに、一輪ずつ刺すことにしている。

 二年前に春香は亡くなった。聞いたことのない病だった。発病してからはあっという間だったと思う。亡くなる数か月前に、俺と元気に海水浴に行ったというのに。

 春香が亡くなる寸前に言っていた言葉を思い出す。

 ――これから旭は私じゃない他の誰かを好きになって、将来を添い遂げることになる。嫌か嫌じゃないかって言ったら、すごく嫌。だけど、死んだ人がこれから何十年も生き続ける人を縛ってはいけないと思う。だからせめて、私のことを忘れないでほしいの。他の人を好きになっても、「ああ、あんな子が昔いたなあ」って、私のことを死ぬまで覚えておいてほしいの。