「……あなたはどうして。私にはそんなことばっかり……!」


 顔を上げてそう言った麗華の瞳には、涙が浮かんでいた。泣かれると思っていなかった俺は、ぎょっとし罪悪感に覆われた。

 しかしここで優しさを出してはいけない。俺なんかを好きになっても、時間の無駄なのだ。早く嫌われてもらわないと。


「俺はそんな人間だよ。どこをどう勘違いしたかは知らないけどさ。中身すっからかんの、最低な奴なんだよ」

「……! もう知らない! 嫌い!」


 そう言って、今朝と同じように麗華は走り去ってしまった。「嫌い」と言ってくれた。よかった、と思った。

 心に生まれた罪悪感と寂寥感には、そっと蓋をする。


「……旭さあ。あんたいつまでそんなことやってるつもり?」


 弥生は呆れたような面持ちで、ため息交じりにそう言った。怒ってはいなかったが、どこか落胆しているようだった。


「いつまでって。俺はずっとこういうつもりだよ」

「一生? 一生、あの子のことを引きずって、そうやって生きてくの?」


 「あの子」という言葉に、瞬間的に震える。輝くようなあの笑顔が、脳裏に一瞬で蘇る。

「一生だよ」


 俺は短くそう言うと、弥生に背を向けて歩き出した。カラオケに行く気にはもうなれなかった。弥生もそうだったようで、俺の後を追いかけてはこなかった。

 俺はひとり帰路につきながら、明日の予定についてぼんやりと考える。土曜日で学校が休みである明日は、「あの子」月命日だ。

 いつものように、バラの花を持って俺は「あの子」のところに行こう。