弥生は目を丸くして、麗華を見ながら数回瞬きした後、俺だけに聞こえるような小声でこう言った。


「……と、申しておりますが」

「身に覚えがない」

「どうする?」

「悪いんだけど、彼女のふりをしてくれないか。そうすれば諦めてくれるかもしれん」

「御意」


 弥生は不敵に微笑んで、麗華と対峙した。麗華はそんな弥生にたじろいだようで、一歩後ずさる。


「ごめん腐れ縁って嘘。私はこいつの彼女だよ。おかしいなー、私が恋人のはずなのに」

「は、はあ⁉ 旭くん! どういうことよ⁉」

「いやどういうことって言われましても」


 なんで当たり前のように恋人同士の体で話を振ってくるのだろう。すると弥生は、相変わらず不敵そうな顔をしながらこう言った。


「あんたさあ。旭の恋人って言い張るけど。旭のことをなんで好きになったの?」


 おお、それは俺も聞きたいところだ。麗華が俺を好きだということは理解してきたが、本当になぜ俺なんかに惚れているのかは、いまだに理解できないから。


「わ、私にだってよくわからないわよ! だけど人を好きになるのに明確な理由なんて、ない場合が多いんじゃないの⁉」


 急に恋愛の本質をついてくる麗華に、俺は虚を衝かれる思いだった。確かに、彼女の言う通りではある。恋は本能的なものだと、俺も思う。


「じゃあさ。今考えてみて、どんなところがいいと思う? 旭の魅力って何?」


 弥生の問いに、麗華は少しだけ黙考してから口を開いた。