「いやあ。ちょっと美少女に迫られましてね」

「妄想たくましいね」

「本当だってば」

「はいはい。とりあえずじゃあカラオケ行こうか」


 明らかに嘘とわかる理由(嘘じゃないんだけど)を軽い口調で述べたためか、弥生は俺の疲労をたいした問題ではないと決定づけたらしかった。行きつけのカラオケボックスの方へと歩き始める。そして、そのあとに俺は続こうとした。

 ――その時だった。


「ちょっと! 旭くん!」


 背後から、かわいらしいけれど怒気のはらんだ声が聞こえてきた。昨日、今日とたくさん聞いたためか、やたらと耳に馴染む声だった。

 もしかして、諦めていなかったのだろうか。俺は頭を抱えた。そんな俺の代わりに、弥生が訝し気な顔をしながら振り返った。


「ん、誰?」

「なんなのよ! 私というものがありながら他の女性と……! どういうつもりなの⁉ この浮気者!」


 恋敵に対して「女性」というところが、いかにもお嬢様らしくて少し感心する。

 俺にエロい要求をされてしり込みしてしまったものの、他の女の子と待ち合わせする現場を見て、いてもたっても居られず出てきたということか。


「あんたマジで美少女に迫られてるじゃん。すげー笑える」


 弥生は麗華をマジマジと見た後、とても面白おかしそうにそう言った。すると、麗華は弥生をきっと睨みつけながら、彼女に詰め寄る。


「あなたは旭くんのなんなんですか⁉」

「なんだろう? 腐れ縁?」

「誤魔化さないでください!」

「それじゃあ、あんたは旭のなんなの?」

「私は……! 旭くんの、こ、こ、こ、恋人ですっ」


 顔を赤くしながら、たどたどしい口調で言う。って、俺は恋人になった覚えはないんだけどなあ。