朝以降、俺と麗華は一切会話をしなかったので、クラスメイト達も俺のことはもう気にしていなかった。学園のマドンナに近づいたら、変な因縁をつける男は絶対に現れるので、本当によかった。

 そういうわけで、麗華とのよくわからない騒動はこれで終わりだ。そう結論付けて、俺は放課後いつものように繁華街へと繰り出した。

 今日は、幼馴染で悪友の弥生とカラオケに行く約束をしていた。幼稚園からの腐れ縁だが、お互いのことをよくわかっていて、男女の垣根を超えた友情を築けている貴重な間柄だ。

 待ち合わせスポットの駅近くの時計台の前に行くと、すでに弥生はいた。赤いインナーカラーを入れたストレートボブの髪を靡かせながら、気怠そうにスマホをいじっている。


「ごめーん待ったー?」


 待ち合わせに遅れた女の子の決まり文句を、冗談じみた口調で言うと、弥生はいつものようにかったるそうに俺を一瞥した。


「超待った。半日は待った。今日はあんたのおごりね」

「俺の経済力では無理だ。金銭の援助はあの社会人の彼氏にしてもらってください」


 弥生は、昨年バイト先で知り合い、今年から社会人となった五歳上の彼氏がいる。弥生は外見は非模範的だが、男女交際に関しては至って真面目だ。そこは俺とは違う点である。


「ん? ってか、あんたなんかすげー疲れた顔してるけど」

「え、マジ?」

「なんかあった?」

 今日あった普段とは違うことといったら、ひとつしか心当たりがない。もう解決はしているが、確かに疲れる出来事ではあった。